ヨガワークスのティーチャートレーニング講師に学ぶ、「マインドフル・ムーブメント」としてのヨガ(前編)

グーグルやフェイスブックといったシリコンバレーのIT企業が取り組んでいることがきっかけとなり、日本においても企業研修などの文脈で「マインドフルネス」という言葉を耳にする機会が増えた。一方でヨガスタジオやピラティススタジオのWebサイトにおいても「マインドフル・ムーブメント」という単語を目にすることがある。両者にはどのような関係があるのだろうか。

ヨガ先進国のアメリカで30年以上の歴史を持つ老舗ヨガスタジオ・ヨガワークス。そのティーチャートレーニング講師であるジェニー・コーエンがこのたび来日した。ジェニーは『最強のヨガレッスン』の著者レスリー・カミノフらに師事し、ヨガ哲学はもちろん、解剖学についても深い知識を持つ。そんな彼女に「ヨガとマインドフルネス」をテーマに話を聞いた。

あるがままの自分を受け入れる「サントーシャ」

―最初にジェニーさんご自身とヨガの出会いについて教えてください。

私がヨガと出会ったのはダンサーというバックグラウンドを通じてのことでした。最近のダンスの先生は指導にヨガを取り入れることがよくあります。ただ、最初はそれがすごく退屈で嫌だったんです。

大学卒業後、2年間をフランスで過ごし、帰国後に本格的にヨガを始めることになったのですが、その時も先に始めていた母に無理やり連れられてという感じでした。

―意外ですね。そこからどうしてのめり込むことになったのですか?

ある日のヨガのクラスを終えると、携帯電話に友人からの着信が残っていました。かけ直すと「調子はどう?」と聞かれたので、「いいよ」と答えました。

その時ふと気づいたんです。ああ、調子がいいと口にしたのは本当に久しぶりだ、と。ヨガを始めた頃というのは、私自身の心身があまりよくない状態だったので。

この出来事を通じて、ヨガは自分でも気づかないうちに人生に入り込んでいくものなのだと知りました。その時点では言葉で説明できなかったとしても、身体的にも精神的にも、人に何らかの影響を与えていくものなのです。

―ジェニーさん自身はその後、どんな影響を実感していきましたか?

まず、身体的な影響は明らかでした。強さ、柔軟性が生まれ、身体への気づきが高まりました。私はダンサーだったので柔軟性や身体への感度についてはもともと高い方でしたが、上半身の強さはヨガによって養われたものです。

身体にとって強さ、安定性というのは非常に重要です。特に柔軟性の高い身体であればあるほど、安定性がないとバランスを崩す危険性が高まります。

―精神面の影響はいかがですか?

こちらはいまでも言葉にするのがすごく難しいですが、ヨガの哲学を学んだことにより、自分自身が許しを得た感覚がありました。

―許しの感覚とは?

自分自身を見つめる際の深刻さが減ったと言いますか。その結果、それまでは自分では目を背けたくなるような部分に関しても、ちゃんと目を向けることができるようになりました。

この感覚は、解剖学を学んだことによって一層強くなっていきました。

―解剖学が与えた影響について、もう少し教えてください。

解剖学を学んだことにより、どれだけ練習をしようとも、例えば自分の股関節ではできないポーズがあるということを知ることができました。そのことにより、自分の身体が完璧でなくていいんだと思えるようになったのです。

それまでできなかったことができるようになるために、頑張って練習しなければならない局面はもちろんあります。そうした時にも、それまでより優しいアプローチが取れるようになりました。

このようにしてあるがままを受容し、そのままでいることに満足することを、ヨガ哲学では「サントーシャ」と呼び、重要なことであるとしています。

解剖学を学んだことは、指導者としての生徒との関わり方も変えてくれました。矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、人体についての理解が深まれば深まるほど、生徒たちが単なる骨と筋肉の塊ではない、それ以上の存在として見えるようになったのです。

続きは後編で。

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