どん底から這い上がるための「スランプ対処法」元女子バドミントン選手・小椋久美子さん
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心と身体に休息を与えて、心身のバランスを上手に保つ方法は?
現代社会はストレスとの闘いです。「こころを整える」ためにどうすればいいのか、各界の著名人をゲストに招いてCOCOLOLOライフmagazine編集部がメンタル面の変化に着目しながら切り込んでいく「こころトーク」。
今回のゲストは、前回に引き続きバドミントンの女子ダブルスペア日本代表として「オグシオ」コンビで世界中を沸かせた元女子バドミントン選手の小椋久美子さん。COCOLOLOライフmagazine編集部の板生研一(WINフロンティア㈱代表・医学博士)との対談形式で、どん底から這い上がるためのスランプ対処方について語って頂きました。
どん底までとことん落ちるからこそ、這い上がれる
編集部:前回でもスランプについてお聞きしましたが、スランプへの対処法ってありますか?落ちた後に浮上するきっかけというか、気持ちを切り替えるときのルールとかあったりするんでしょうか?
小椋:そうですね、私の場合はとりあえず落ちるとこまで落ちます。気持ちも考えも全て落ちます。きっと中途半端に落ちるだけだったら変なプライドが自分の中に残るんですよね。プライドが残る上に、失いたくないものや守りたいものを自分の中に作ってしまうので、落ちるんだったらとことん落ちます。どん底まで落ちた方が這い上がれるタイプなので(笑)
編集部:具体的に「落ちているときの1日」ってどんな感じですか。外に出ないで引きこもるとか?
小椋:自分の中でリセットするだけかなと思います。だから行動はいつもと変わらないんです。普通に練習もするし、全く何もしませんという状態ではないですね。自分の内側の気持ちが重要というか…。例えば単純に気持ちが落ちているときって上手くやろうと頑張り過ぎて、ものすごい空回りをしてしまう自分がいるんです。で、そういうときって正直な話、何の発見もないしプラスになるものが一切ない状態。だけど、本当に落ちるとこまで落ちると初心に戻れるんです。バドミントンと向き合えるというか、バドミントンを最初に始めた頃を思い出すことが多いですね。
編集部:「落ちた」ときにバドミントンを始めた時期の自分を思い出すんですか。
小椋:スポーツ少年団でバドミントンを始めた頃の自分を振り返ってみると、負けないための技を編み出すとか、こうしたら相手選手を騙せるかな?とか…負けず嫌いな性格だから、そんなことを考えながらバドミントンをプレイしていたんです。それがすごく楽しい思い出として私の中に残っていて。「私、バドミントンほんと好きだもんな〜」って昔のことを思い出しながら「よし!もう1回がんばってみよう!」と前向きな気持ちになれるんです。ほんと単純なんですけどね(笑)
編集部:昔の楽しい記憶って、置かれている状況によっては頭だけで思い出すことが難しかったりしませんか?例えば、特定の昔の写真をみるとか…。楽しい記憶を思い起こさせるきかっけはありますか?
小椋:写真を見て…とか、何かをきっかけにして思い出すことはないですね。ただ自分の記憶を辿っていくだけ。試合や練習の思い出だけではなくて、みんなで同じバスに乗って、お菓子を食べながら遠足気分で試合会場に向かっていたときが楽しかったな〜とか。バドミントンに関わる楽しい思い出がフッとよぎるという感じです。
編集部:楽しい思い出を振り返るのも、メンタルトレーニングやメンタル管理の1つですか?
小椋:管理というよりは最終的に、ですよね。私はとことん落ちることによって1度プライドを捨てられたんです。プライドを捨てることで得られるものがあるというか。変なプライドが残っていると、「他の選手よりもこの技術が優れている」「他の選手にはこの部分では負けていない」それなのになぜ勝てないのかって自分の中にある余計なプライドが邪魔してしまって…。プライドを捨てることで自分にはできないこともあるんだって認識できるんです。できないことや自分の弱さを知ることで痛感することもありますが、それ以上に学ぶこともあります。
弱みを知ることで、今までの自分を1度リセットしてみる
編集部:できないことや弱さですか。ご自分の弱みと強みについてどう考えていますか?
小椋:私、こう見えて技のテクニックが本当にないんです。センスがないというか…。私の強みは生まれ持った体格の良さやリーチの高さ。それから、試合を進める上での読みの良さや状況を判断する感覚を活かして堅実に動きながら頭脳プレイをすることが得意なタイプ。他の選手にはないパワーも強みだけど、技術的なセンスは全くなし!でも、ある意味その弱みを知ることでこだわらなくなりました。
編集部:弱みを知ることで見えてくるものとは?
小椋:落ちるだけ落ちて初心に戻ったとき、なにが楽しかったかを考えてみたんです。私の場合はシャトルを追いかけることがすごく楽しくて。もちろん相手コートに決まってノータッチが取れた瞬間も快感があるんですけど、シャトルを落とさずに追いかける、相手のフェイントに騙されずに取る、あの感じも好きなんです。その感覚を思い出したとき、バドミントンって色々な勝ち方があるなって思うようになって。
技術ばかりにこだわって、他の選手と比べて悲観する必要もないかな〜って考えが変わりましたね。どんなにすごい技で相手がショットを打ってきても、自分のコートに落とさなければいいというか、私が拾って相手コートに返せばいいだけの話。どんな方法でも1点が取れればいいと思うようになりました。高い技術やセンスの良さを持っている選手を見ると、ちょっとヘコみますけどね。
とはいえ、そこで勝負してもしょうがない!って切り返せるようになりました。それどころか、落ち込むだけ落ち込むと「あのショットはどうやって打っているの?」「どんな身体の使い方をすれば、あの技ができるの?」とプライドや見栄を張ることなく興味を持てるようになったというか。もし私がどん底まで落ちなかったら「絶対にこの選手より私の方が優れているはず!」っていらない考えが残っていたと思います。
どん底まで落ちれば、あとは這い上がるだけだから、捨てるものもないし頑張るだけじゃんって。このマインドチェンジが私にとってのリセット方法だったんですよね。
編集部:そのリセットは年にどのくらいするものなのでしょうか?試合に負けた後とか?
小椋:そんなにないですよ。負けたときというよりは、スランプに陥ったときですね。自分が進む道に迷いが出たときとか、物事が上手くいかなくて戸惑っているときとか…。それから心と身体のバランスが取れないときにもこのリセット方法を使います。
編集部:心とバランスが取れないとき…。これはCOCOLOLOにとっても大切な課題です(笑)
小椋:心が前のめりになりすぎて身体が追いつかないというか。身体の基盤は出来上がっているのに「なんでこんなに焦っているの?」と心だけが先走ることがあるんです。そういうときに冷静になるために考えることはありますよね。
編集部:どんなときに考えたりするんですか。練習している最中、移動してるとき、夜寝る前…いろいろあるじゃないですか。
小椋:私は無意識に頭の中で何か考えています。これが私の性分なんですけど、変な話、夢にまで出てくるんで(笑)いつ考えるというよりは、頭のどこかでずっと考えていますね。
編集部:メンタルヘルスの考え方で言えば、人間は元来、常に雑念が入る生き物なんですよ。過去を後悔したり未来を心配したり…。例えば今、この場にいてお茶を飲んでいるのに未来や過去が気になって、目の前で飲んでいるお茶を気にせず注意があちこちにいってしまう…それに近いことってありませんか?
小椋:たしかにありますね!特に不安になっているときは人と話しているのに不安なことが気になって、話を聞くことに集中できないんです(笑)
どん底に落ちたからこそ這い上がることができた!と笑顔で語ってくれた小椋久美子さん。一流のプロアスリートであると同時に、弱さを持つ人間であることを認めることで試練を乗り越え、精神面での成長を遂げたのはご自身にとっても大きな学びとなったのではないでしょうか。次回のインタビューでは緊張に負けないために小椋さんがルーティーンで行っていたことを直撃!どうぞお楽しみに。
編集:COCOLOLO ライフ magazine 編集部
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