生きるエネルギー源のごはん。おみそ汁とセットで最強の「疲れない食事」になる 管理栄養士 柏原ゆきよさん 後篇

自身が劇的に変化した、ごはん中心の食事法

編集部:柏原さんご自身もごはんとおみそ汁の食事に変えて体調が劇的に変わったとのことですが。

柏原:私は20代の頃、すごく体力がなくて、疲れるとすぐに高熱を出し、膀胱炎にもなりやすく抗生物質をよく飲んでいました。ストレスが溜まるとジベル薔薇色粃糠(ひこう)疹という全身に赤い湿疹が出る皮膚病にもなっていました。
冷え性で平熱は35.2度。20歳の時に生理が止まってホルモン治療も行いましたし、外見的にはすごく老けて見られていて、30歳手前でよく40代に見られていました。
極度の乾燥肌で小じわが多くて顔色がくすんでいて、高校生の頃から目の下はクマで真っ青。でも、ふつうに生活していたし病気という概念はなかったのですが、今思えば相当貧相で、誰が見ても不健康そうな感じだったと思います。

そして、その頃の食事といえば、パンと麺類が好きすぎて、ごはんを食べる頻度は極端に少なかったです。
そんな私が、仕事でいろんな人の食事を通して、お米をメインでしっかり食べている人が、歳をとっても若々しいし元気であるという傾向に気づき、30歳になって丁度結婚も重なったタイミングでごはん中心食に変えたのです。
すると、まず体温が劇的に上がり冷えなくなりました。冷えなくなると身体がすごく楽になります。ごはん中心にした結果、気が付くとコンプレックスだった不調がどんどんなくなっていったのです。

 

基本は、朝昼晩しっかり3食ごはんを食べる

編集部:ごはん中心の食事というと、どんな感じで食べるのですか?

柏原:普段は、基本的に朝昼晩の3食がごはんとみそ汁という定食スタイルです。
企業の健康管理で何千人もの食事の分析を行った中で、ごはんを中心にした食事をしていくと炭水化物、たんぱく質、脂質のバランスが整うことがわかりました。
よく総カロリー量だけを問題にしますが、例えば、調子の悪い人はカロリーが少なくても脂質の比率が高い傾向にあり、ごはんの量を増やすように変えていくといい結果が出るケースが多かったのです。
ですから私は「ごはんをしっかり食べてください」と言っています。ただし、おかずをしっかり食べてしまうと太りやすい傾向があります。外食などではおかずが多くなりますので、普段のお食事ではおかずを少なめにすることで全体のバランスが整います。

 

 

ごはん中心食はストレスフリー。日常の食は非インスタ映えが○

編集部:おかずは少なくていいとラクですね。

柏原:おかずまでちゃんと作らなきゃいけないとうのも、実は日々のストレスなんだということにも気づきました。ごはん中心にすると食事の準備が圧倒的にラクです。
おまけに食材が少なくて済むから冷蔵庫もすっきりしますし、おかずの食材や調味料が減ったりする分、食費も下がりますし、、、。いいことづくめです。

ある意味、日常の食は、インスタ映えしないことが大事なのです。これは、決して粗食を推奨するのではありません。高齢者研究では、ふだんはシンプルな食ですが、適度に外食をすることで変化があります。外食では、普段食べない食材や調理法が増えますので、結果的にいろいろなものを食べることになります。前回お話したように、食の多様性は大事ですからね。
要は、日常の食では手間を省くことによる「ストレスフリー」、それ以外の場では好きなものが食べられる上に食の変化も楽しめて好奇心を刺激するという点で「ストレスフリー」ということです。

 

一日ごはん2合とおみそ汁は、バランス最強の組み合わせ

編集部:ごはん中心食だとたんぱく質はどうなのかな?と思ってしまいますが。

柏原:意外と知られていないのですが、国民健康栄養調査という国の統計において、たんぱく質の摂取源を食材別に集計すると、第1位は穀物です。肉や魚といったおかずではなくて米や小麦などの主食由来なのです。

カロリーベースで内訳をみると、お米はたんぱく質の占める割合がわずか6%ほどで、圧倒的に炭水化物が多い(約92%)ので、たんぱく質の存在感は薄く、炭水化物の塊というイメージです。栄養成分表は100グラム重量当たりの栄養の量で表示されているので、重量当たりのたんぱく質量が多い肉などから摂っている印象が強くなります。
でも、ごはんはお茶椀1杯が150グラムだとして、それを1日に3回、計500グラムくらいは女性でも簡単に食べることができます。肉を毎日500gも食べるのは大変ですよね?
つまり、朝昼晩食べられるごはんは、頻度が多いから影響力が大きくなるのです。ここに着眼している栄養士さんはほとんどいないと思います。

 

編集部:ごはんはどのくらいの量を食べるのが理想ですか?

柏原:私は「1日2合食べて」と言っています。ごはんの量にすると、茶碗1杯150gで4半々くらい。えっ?!と思うかもしませんが、これは40年前の日本人1人当たりの1日の平均摂取量です。

 

編集部:ごはんを食べていると甘いもの(糖分)は欲しくなくなるのでしょうか?

柏原:体が求めなくなりますね。身体のメインの燃料は糖ですから、足りていないとエネルギー不足のサインである「甘いモノくれ~」という指令が出ます。お菓子などの甘いものは分子が小さいため早く吸収されますから、急速チャージできます。甘いものが好き、食べはじめると止まらないといったパターンは燃料不足が引き起こしているのです。

 

編集部:そして、おみそ汁で大豆からのたんぱく質が加わりますか?

柏原:たんぱく質の栄養的評価をする指標にアミノ酸スコアというものがあり、何種類かある必須アミノ酸が全部満たされると100になります。栄養学では、アミノ酸スコアが高い動物性たんぱく質の方がよいとされますが、残念ながら植物由来のものに100は少ないのです。
実際、お米はアミノ酸スコアが65くらいです。ですが、大豆と一緒にとると100に近づくのです。お米には少ないアミノ酸が大豆には多く含まれているため、一緒に摂ることで補完し合ってアミノ酸の評価がぐんと良くなります。分かりやすくいうと、米と大豆を組み合わせると、たんぱく質は肉レベルになる、ということです。ここが組み合わせの妙です。

 

 

疲れるのは年のせいではなく、日々の食事のせい

編集部:著書のタイトルに「疲れない体を作る疲れない食事」とあります。結果、疲れない体にもつながるということでしょうか?

柏原:はい。自分自身食事を変えて疲れにくくなった実感がありました。実は、元々疲れやすいという自覚はなかったのですが、圧倒的に体力がついた結果、元氣に活動できる時間が長くなりましたね。食事は私たちの身体の燃料です。長年現場を見ても、自身を振り返っても、人生を有効に使うには、まずは体力のある疲れない体が必要だと痛感しています。

 

編集部:どのくらい続けると疲れにくさを実感するようになりますか?

柏原:私は「1週間チャレンジ」を提唱しています。ある程度集中して続けることが、体質を変えるのに効果的だからです。3食ごはんとみそ汁を続けると、その後でラーメン食べた時においしさや、食後の体調の違いを感じる人が多いです。
ごはんとみそ汁の食事は、消化・吸収・排泄が良くなるので、胃がもたれないし、便秘もしにくいですし、結果的に体が軽く感じるようなって、疲れにくさを実感します。これを実感して、結果的にごはんのウェイトが上がってくる人が多いのは事実です。

 

「噛まない食事」は鬱などのメンタル疾患にもつながりやすい

編集部:世の中では、社員のやる気がないということが問題視されていますね。

柏原:新入社員研修をやると、上の人たちから、最近の若者はやる気がない、ちょっと厳しくすると嫌になって辞めてしまうと相談されます。そういう社員は概して体力がなくて体調が悪い傾向があります。そして食事をみると、ちゃんと食べていない人が多いですね。

 

編集部:「ちゃんと」食べてないとは?

柏原:若い人たちの食事で残念なのは、「食事らしい食事をしていない」。お菓子だけとか、ゼリー飲料とか簡易的なものだけで1日の食事を済ませてしまうというパターン。
食べてはいても「カップ麺と菓子パン」「サラダばかり」など内容の問題と、「3食食べていない」「食べる量が圧倒的に少ない」という頻度や量の問題など、様々です。

また、現場を見ていてわかったのが、鬱っぽくなる人は、米や固形物を食べていなくて咀嚼が少ない傾向があります。流し込んでしまう液体に近いもの、柔らかくて噛まなくていいものが多いのです。
よくあるパターンは、仕事が忙しいから食事を抜く、次第に食べるのが面倒になる、食べないから疲れる、食べる意欲が落ちる、、、といった悪循環です。食べないことが日常化すると胃腸の機能が低下するため、お腹がだんだん空かなくなってきて、「食べなくても全然平気」と感じるようになるわけです。
体力が低下して疲れやすくなることが、メンタル疾患の入り口にもなっていると思います。疲れていると、面倒くさくなり、やる気も出なくなる、、、という連鎖が起こります。
そういうときに「仕事がんばれ!」とか「やる気を出せ!」と言われても、そもそもエネルギーがないので出力できません。気持ちも落ち込みやすくなるため、仕事がイヤになって辞めたくなる。そういう流れもあるのではないかと思います。

 

未来の世の中を見据えて体調の良さが実感できる食を伝えたい

編集部:オフィス街におにぎり屋さんがもっと増えるといいですね。では最後に、柏原さんの今後の抱負を聞かせてください。

柏原:未来のことを考えると、若い女性の食事は大切です。妊娠のしやすさ、生まれてくる子どもたちの健康度が違ってきます。妊娠出産は命がけなので、母体がエネルギー不足なのは問題ですし、きちんと食べて自律神経が整えばホルモン系も整ってきます。最近は不妊治療も増えていますが、女性ばかりでなく、男性の身体も大切です。とにかく若い世代には未来を考えた食事の大切さを伝えたいです。

一方、人生が長くなっていますので、いかに寝たきりにならず若い世代に迷惑をかけないかも重要です。長い人生最後まで元気でいるためには、老化が加速する40歳を超えたら気をつけて欲しいです。実際、代謝機能が落ちて太りやすくなった、疲れやすくなったなど、「あれ?何か違うぞ」と感じたタイミングで手を打つことで、その後の人生が変わります。

朝起きた時にお腹が空いていて食欲がある、前日の疲れが残っていなくて前向きな気持ちであれば、毎日の充実度が変わってきます。これからも、数値管理だけじゃない、人生のパフォーマンスを上げる食事法で、みなさんが幸せになるお手伝いをすることで、日本の活性化を目指します。

 


柏原 ゆきよ(かしわばら ゆきよ) YUKIYO KASHIWABARA
一般社団法人日本健康食育協会代表理事、管理栄養士。
(一社)食アスリート協会(一社)日本こども成育協会(一社)ストレスオフ・アライアンス他複数団体の役職を兼任。

企業の健康管理室、健康保険組合、医療機関、介護施設、アスリートやモデルなど4万人以上の食サポートの経験を通じてごはんとみそ汁を中心とした独自の食メソッドを開発。
全国およびNYなどでの講演は2,000回を超え、経営者をはじめビジネスパーソンのパフォーマンスを上げる食提案に定評がある。
健康経営を軸とした企業ブランディングのプロジェクトを複数推進している。
著者累計10万部を超え、最新刊は「疲れない体をつくる疲れない食事」(PHP研究所)。
柏原ゆきよ公式メルマガ、YouTube「ゆきよチャンネル」も好評配信中。


編集:COCOLOLO ライフ magazine 編集部

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