禁止・制限・がまんのない食の実践法で元氣な人を増やしたい! 管理栄養士 柏原ゆきよさん 前篇

今回の「こころトーク」は、管理栄養士であり日本健康食育協会の代表でもある柏原ゆきよさん。4万人の食生活サポートと、何よりもご自身の体調が劇的に変化したという経験から生まれた、ごはんとおみそ汁のシンプルな食事法を提唱しています。
あれダメ、これダメといった食制限が蔓延する中、疲れにくく、体調の変化実感が得られる食、いろいろな意味でストレスフリーな食としての魅力を、豊富な現場経験を交えて前篇、後篇2回に渡ってお話を伺いました。


 

4万人の声から確信を得たのは、本人の「体調変化」の実感

編集部:ごはんとおみそ汁というシンプルな食事法を提唱されています。食に関わるいろいろなお仕事をされてきた中で、どうしてこのようなシンプルな食事法に至ったのか、まずはきっかけを教えください。

柏原:もともと企業の健康管理の仕事で、健康診断の数値結果をもとにメタボ改善の食生活サポートなどを行っていました。
でも、食事は薬のように即効性はないですし、数値が変化するのにも時間がかかります。また、例えば血糖値などは測定しても本人の自覚と結びつきづらく、意欲的な一部の人しか継続できないのです。体重変動を基準にすれば、今度は痩せようと思って食べなくなる人もいます。対症療法的な食事は制限が多くストレスがありますし、続けられない食事は効果も一時的なので、それでは意味がないな、と思うようになりました。

4万人くらいの人の食事をサポートする中で、ごはんとおみそ汁をしっかり食べている人は不調が少ないことに気づきました。そこで、健康状態を改善したい人に提案してみたところ、「元気になった」「体調がいい」「イライラしない」「疲れにくい」「やせた」という声がたくさん挙がったのです。
難しい測定もいらず、自分の感覚でわかる日々実感できる変化が、継続するモチベーションになります。そして、体調がいいと思えることを続けていると、自ずと健康診断の数値改善もついてきたのです。

 

体調の良さは、日々の気持ちの前向きさにつながる

編集部:自分の体調で変化を実感できるのですね。

柏原:私のスタンスは「毎日楽しくないともったいないよね。」です。だるくてなんか体調よくないな~という時って、やる気も出ないし、気持ちも後ろ向きになりがちです。そんな時に仕事でなにかトラブルが起きたら、イラッと来たり、「もう最悪!」と投げやりになったり、、、起きたことに対する受け止め方もネガティブになりますよね。
でも体調が良くて気持ちが前向きだと、何か起こっても、「よしがんばろう」「この状況をどうやって乗り越えようかな?」と前向きになるものです。

実際に、4万人の食事サポートをする中で、「人生が変わりました!」と言われたこともありました。
「私が本当にやりたいのは何か?」を考えた時、制限をかけてダイエットとか数値を改善することではないなと思いました。食べる大切さや喜びを伝えることで、毎日の食事が楽しくて人生が幸せになるお手伝いをする方がやりがいを感じると思うようになったのです。

 

 

消化や代謝機能に影響を及ぼすストレス。食にストイックでない人の方が成果が出やすい?!

編集部:食事サポートをされる中で、ストレスとの関係で気づかれたことはありますか?

柏原:一般的に病気になると「あれダメ、これダメ」と食事の制限が多くなります。そうすると、食事をする際に「これ食べると悪くなるかな~?」と考えたり、仮にダメと言われているものを食べてしまうと「あ~自分って意思が弱いなぁ・・・」と後悔したり、、、。食事のことで一喜一憂することが増えます。
食べることが好きだった人にとっては、制約が増えて食自体が楽しめなくなり、食べることにストレスに感じるようになってしまうのを見ていて、とても残念だと思いました。

糖尿病の患者さんの中には、すごく真面目に食事制限をがんばっているのに良くなっていない方が結構いらっしゃって、「これ以上何をやればいいのですか?」と聞かれたりもしました。一方で、意外と適度に息抜きもあって食事のことに頑張りすぎていない人が病気が悪化していなかったりするわけです。
「この違いって何なんだろう?」と、とても不思議に思いました。

 

編集部:食に関する制限がストレスということですか?

柏原:そうなんです。ものごとの捉え方で体の反応って大きく変わるのです。否定的だったり懐疑的だったり、心配や不安を感じるというのは、言わばストレスを感じるということです。
先ほどの糖尿病の場合、もちろん糖質が血糖値を上げる要素ではあるのですが、ストレスが強いほど糖質を抑えても血糖値が下がらない傾向があるなど、その方のメンタルとの関係性がとても大きいことが次第に見えて来ました。今では実際に、精神面と血糖値の関係は証明されています。

わかりやすい血圧を例にとっても、高血圧は塩分が原因というのが有名で塩分制限がかかりますが、塩分を控えても血圧が下がらない人が多いです。日本人の場合、塩分が原因で血圧が上がっているのは4割未満と言われています。つまりで6割以上は塩分以外が原因で、その中で大きいのはストレスです。ストレスが強いと血圧は食事制限をしてもなかなか下がりません。

 

編集部:ストレス過多で交感神経が優位なままだと良くなさそうですね。

柏原:そうです。自律神経は消化や代謝機能にもストレートに影響を与えます。人間の身体はストレスが強すぎると、臓器の機能や代謝物質の働きが悪くなるということは大事なポイントです。
もちろん病気の場合ある程度の制限も必要ですが、頑張りすぎてプレッシャーのかかる食事制限より、リラックスして楽しめる食事の方が病気や体調が改善するというのも事実で、私はそのことの方が大事なのではないかと考えています。

 

 

食には、そもそも好奇心をそそる多様性があるべき

編集部:今は食情報が溢れていて、かえって食を楽しむのが難しい気もします。

柏原:私は、世の中が安心感のない食環境であることが問題だと思っています。食や健康の情報はすごく多いのですが、内容は不安を煽るものが多いです。「これは危ない」「これ食べちゃいけない」というような。

 

編集部:本の中でリスクリダクションと書かれています。悪いものを排除する考え方ですね。

柏原:そうです。健康意識の高い人ほど、悪いものばかりに目が向きがちです。農薬や添加物もそうですし、塩分、糖質、カロリーetc.。そういったものを無くそう、減らそうと頑張ります。こうして完璧を求めることって、とても大変ですし、何よりも自由さがないことが大きな問題だと思っています。

 

編集部:食にがんじがらめになっている?

柏原:食事法にしても、ファスティングとか一日一食とか、様々な情報がありますが、「食べたら太る」「食べ過ぎは病気になる」「少ない方がヘルシー」といった既成概念から、ベースとして食を「制限」をする思想が強いんです。

栄養を摂ることも食事のひとつの目的ですが、食をきっかけとした豊かなコミュニケーション、社会性、さらには好奇心をそそったり変化が生まれるということは、人間が人間らしくポテンシャルの高い状態を維持するためにすごく重要だと考えています。食に多様性があること、選択の自由があることは非常に大事です。

 

編集部:確かに、本来食文化はさまざまで、好奇心をそそるものですね。

柏原:健康長寿の研究の分野では、こういった要素がないと、どんなに食事と運動をしっかりしていてもダメだということが明らかになっています。
90歳100歳で元気なおじいちゃん、おばあちゃんに会って話を聴くと、ほとんどの人が、「好きなものを好きなだけ食べている」と仰います。普通にコンビニの菓子パンも食べていますし、嗜好品も結構食べている。ましてや添加物や農薬を気にしている人とか、玄米食にこだわっています、なんていう人はあまりいません。
こうやって長年いろいろな現場を見ていくと、健康を意識しているのにあまり元気でない人と、それほど気にしていない様子なのに元気な高齢者がすごく対極に思えたのです。

健康を数値で管理することが重視されがちですが、それよりも見た目の肌ツヤや元気そうでパワーがある状態ってすごく大事だと思うのです。
現場をみてきて確信を得た私自身、30歳でごはんとおみそ汁中心の食事に変えて劇的に体調や見た目が変わり、実感しています。

 

編集部:原点はご自身にもあるのですね。ごはんとおみそ汁の食事法の素晴らしさについては、次回、たっぷりお話を聞かせて下さい。

 

後篇に続く


柏原 ゆきよ(かしわばら ゆきよ) YUKIYO KASHIWABARA
一般社団法人日本健康食育協会代表理事、管理栄養士。
(一社)食アスリート協会(一社)日本こども成育協会(一社)ストレスオフ・アライアンス他複数団体の役職を兼任。

企業の健康管理室、健康保険組合、医療機関、介護施設、アスリートやモデルなど4万人以上の食サポートの経験を通じてごはんとみそ汁を中心とした独自の食メソッドを開発。
全国およびNYなどでの講演は2,000回を超え、経営者をはじめビジネスパーソンのパフォーマンスを上げる食提案に定評がある。
健康経営を軸とした企業ブランディングのプロジェクトを複数推進している。
著者累計10万部を超え、最新刊は「疲れない体をつくる疲れない食事」(PHP研究所)。
柏原ゆきよ公式メルマガ、YouTube「ゆきよチャンネル」も好評配信中。


編集:COCOLOLO ライフ magazine 編集部

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