怒りやストレスに向き合うカギは「ポジティブ感情」と「感謝体質」にあり。 人材育成コンサルタント 森みや子さん 後篇


まずは「6秒ルール」でイラッとした自分と距離を置いてみる

編集部:前回は、注意が必要な4つの怒りについて教えていただきました。その怒りをコントロールするための良い方法はあるのでしょうか?

森:アンガーマネジメントでは、『衝動のコントロール』『思考のコントロール』『行動のコントロール』の3つの対処法をあります。
イラッとしたときに最もやってはいけないことは衝動的な“反射”です。いわゆる“売り言葉に買い言葉”やすぐに手を出してしまうといったことです。
そのために「6秒ルール」があります。諸説ありますが、怒りのピークは6秒ぐらいと言われています。アドレナリンの分泌が落ち着くまで、または脈拍が上がって落ち着くまでの時間の目安です。

この6秒ルールは怒りを我慢するではなく、イラッとした時にひと呼吸おいて待つことで、理性的な反応ができるようになる感覚を身につけるトレーニングです。
具体的な方法としては、カチンと来た時6秒待つために、「大丈夫、大丈夫」など自分を落ち着かせる言葉をかけたり、怒りをスケールテクニックを用いて点数化したりします。これは、マックスを人生最大の怒りとして10点、それに対して今の怒りが何点かを考えるという方法です。

例えばホームで人とぶつかった、上司に注意された……怒りは自分の価値観とのズレから生じるもので、自分にとっては大切なことです。
ですからこうした出来事も点数化すると10点満点中8点など高い点をつけてしまいます。けれども人生最大の怒りは相手を殺して自分も刑務所に入ってもいいくらいの激しい感情だとすると、「だったら5点かな?いや3点か…」と冷静に怒りの感情レベルを測ることができるようになります。
そして、トレーニングを続けることで、次第に低いレベルに収れんされて、カチンと来ても「大したことないや」と思えるようになるのです。怒りは怒っているかいないかの白黒ではなく、幅の広い感情だと知ることが重要です。

6秒ルールを続けてみると、イラッとしたことに気づくもう一人の自分ができて、次第に6秒待つまでもなくなってきます。「あれ?最近、ひどく怒ってないかも?」と思えるようになるかもしれません。

 

編集部:とは言え、「あ~怒っちゃった…」と後悔することもあると思います。そういうときの事後処理はどうすればいいですか?

森:ついやっちゃった…というときでも、修復はいくらでも可能ですし、時間が経っても有効です。
例えば、子どもや部下に対して、ひどい怒り方をしてしまったら、少し時間が経ってからでも「さっきはすまなかったね。ちょっとイライラしててさ」「だけど、言いたかったのはこういうことなんだよ」と一言素直に謝ったり、自分の思いを言葉にすることがとても大切です。意地になって本当に伝えたかったことを相手に伝えないと、それはしこりになってずっと自分にも相手にも残ってしまいます。

 

ストレスレジリエンスの強い人は「感謝体質」を持っている人

編集部:「ストレスレジリエンス」も研修で取り入れておられますが、ストレスに強い人と弱い人の違いは何だと思われますか?

森:まずストレスレジリエンスの高い人は、自己効力感-やれば出来る-という気持ちを強く持っていて、気分転換がうまい人です。そして、「感謝体質」を持っている人ですね。こういう人は、周りに相談できる友人もいますし、何かあっても問題を抱え込まずに、前に進むことができるのでストレスに強いのだと思います。
一方、何事に対してもネガティブな人-自分はダメな人間だと思い込む自己卑下が強い-とストレスレジリエンスは低くなります。

 

ガーンと落ち込んだら、まずは感情の渦から離れることが大切

編集部:それでは、ガーンと落ち込んだ時にはどのようにすればよいのでしょうか?

森:2ステップあります。ステップ1は「底打ち」です。自分がガーンと落ち込んでいる状態に気づいて、なるべく早く抜け出すために気分転換をします。そして、ステップ2で「立ち直り」へ進みます。
「底打ち」で重要なのは、落ち込んだ時に感情の渦からうまく離れる状況を作り出すことです。ストレスレジリエンスの低い人は、感情が洗濯機の渦のように巻いている中に入り込んでいて、そこからなかなか出ることができません。さらに危険なケースとしては、渦の中に自分が落ち込んでいることにすら気づかず、部屋の隅で膝を抱え込んでうずくまっているような状態です。そのまま放っておくと鬱状態に陥ってしまうこともあります。

この「底打ち」をする簡単で有効な方法としては、呼吸法とラベリングがあります。ラベリングとは、今の自分がどういう感情にあるのか-「すごく不安」「怖い」「自信がない」など-を敢えて言葉にする方法で、自分抱えている感情に気づくことにつながり、ぐるぐるの渦の中から抜け出すために役立ちます。
そして、渦から抜け出たら「気分転換」をします。早歩きの散歩、スポーツ、掃除に夢中になる、読書に没頭する、カラオケで絶唱する、楽器の演奏など、自分が無我夢中になれることならどんなことでも有効です。ただし、深酒、ギャンブル、爆食い、ドラッグ、暴力的な戦いなどは、後悔が伴うためNGですね。

 

「3Good Things(3つの良いこと)」トレーニングでポジティブ感情を脳に意識づける

編集部:自分の今の感情にきちんと目を向けるのがポイントのようですね。

森:そうですね。いきなり気分転換するのは難しいので、まずは感情の整理が必要です。
そして「底打ち」ができたらステップ2で「立ち直り」をします。立ち直るときには、「ポジティブ感情」を持つことが重要です。そのために、日ごろから「自分の強みは何か?」を考えておく、「やれば絶対にできる」と信じられる手の届く目標を設定し取り組み、達成感を感じることも大切です。そして、親しい人に気持ちを吐露する、友人や同期の頑張りややり方を参考にし、目標に向かっていくパワーをもらうことも「立ち直り」にはとても役に立ちます。
また、「感謝や喜び、うれしいといった感情を強制的に思い起こすことでポジティブ感情が高まる」というアメリカの心理学者マーティン・セリグマン博士の研究結果もあります。ポジティブ感情をもつことは、前を向く立ち直るステップでとても重要です。

 

編集部:ポジティブ感情を鍛えるための具体的な方法も教えていただけますか?

森:「3 Good Things」-3つの良いことトレーニングというものがあるのでご紹介しましょう。
これは、寝る前に、その日一日あったことを振り返って、「うれしかったこと」「感謝すること」「楽しかったこと」を3つ思い出すというとても簡単な方法です。書き出してもいいですし、思い起こすだけでも大丈夫です。
内容は、「今日は涼しくて良かったな~」「友達に○○したら‘ありがとう’って言われた」など本当に些細なことでもいいのです。
1週間続けるとポジティブ感情が長期的に持続すると言われています。前向きに物事を捉えられるように脳にクセづけが行われるのだと思います。是非やってみてください。

 

 

「高いところから低いところへ流れる」怒りの連鎖を断ち切る

編集部:今後ますます感情コントロールやストレスレジリエンス強化のニーズは高まると思いますが、最後に、森さんがこれから力を入れていきたいと思っていらっしゃることをお聞かせください。

森:今、企業は3つの大きな問題に遭遇しています。①早期退職者の問題 ②叱ることの難しさ ③職場での多様性 です。
これらの課題を解決するために、やはりアンガーマネジメントと叱り方のトレーニング、そして、多様な価値観の中でのコミュンケーション-どうすれば相手に正しく伝えることができるのか-といったトレーニングは重要で、今後さらに強化していきたいと思っています。

また、怒りは「高いところから低いところへ流れる」という性質があります。強い者から弱い者へ流れていくのです。管理者から一般社員へ、親から子どもへ、子どもはさらに弱い子へ、そしていじめられた子は動物へ…高齢者や浮浪者への虐待なども社会問題となっています。怒りの連鎖を断ち切って、この流れを食い止めないといけないと思っています。

アンガーマネジメントができるということは、何よりも自分自身が穏やかになり、大切な人生をイライラして過ごすことが少なくなります。そういう人が増えることが、社会全体の怒りの連鎖を断って不幸な事故や事件がなくなることにつながると信じて、これからも活動を続けていきたいと思います。


森 みや子(もり みやこ) MIYAKO MORI

モリプランニング 代表

東京四谷生まれ。株式会社東京放送TBS954キャスターを経て、モリプランニングとして独立。民間企業、官公庁の研修・講演講師、人材育成コンサルタントとしての仕事に従事。新入社員から管理職まで幅広く、多岐にわたるテーマでの研修や講演を実施。職場環境向上、面談、アセスメントの他、スピーチ、プレゼンテーションのパーソナルレッスンを受託。講師歴は25年。年間150日以上登壇。日本アンガーマネジメント協会認定シニアファシリテーター、レジリエンス認定講師

URL http://www.morimiyako.com/


編集:COCOLOLO ライフ magazine 編集部


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