「怒り」はゼロにしなくてもいい。その構造を知って「 振り回されない」「上手に付き合う」ことが大切。 人材育成コンサルタント 森みや子さん 前篇


今回の「こころトーク」は、企業を中心に人材育成のためのコンサルタント・研修・講演を行っている森みや子さんです。
コンサルタントの対象は学生から新入社員、ミドル層、管理職まで幅広く、都度、企業や職種が抱える課題に基づいて様々な研修メニューを組み立てますが、その中で近年必要性が高まっているのが「アンガーマネジメント」と「ストレスレジリエンス」だそうです。
怒りは大切な感情でゼロにしなくてもいいけれど注意が必要な怒りがある、価値観の多様化に伴って叱るのも叱られるのも難しくなっている、といったお話など、自分や周囲を思い浮かべながら思わずうなずきながら進めたインタビューでした。
怒りを正しく取り扱うことは、人間関係でのストレスを減らし人生の質を高めることにもつながりそうです。
企業の中だけでなく日常生活にもすぐに取り入れられるお話を、前篇・後篇2回に渡ってお届けします。


 

この5年間で必要性が高まった「アンガーマネジメント」

編集部:森さんは人材コンサルタントをされていますが、どこで、どのような人たちに対して研修やセミナーを行うことが多いのですか?

森:企業や組織に向けた研修が中心ですが、その対象は新人研修からミドル層やマネジメント層まで幅広く行っています。企業の人事部からの依頼が多いのですが、様々な業種や職種に対応しています。一般の方々へは公開講座でお話しする機会もあります。

 

編集部:「アンガーマネジメント」や「ストレスレジリエンス」をメニューに取り入れるようになったのはいつ頃からでしょうか?

森:そうですね。依頼をいただくと、まず現場で抱えている課題のヒアリングを行うのですが、この5年位の間に早期離職や退職といった問題を抱えているケースが明らかに多くなりました。新人、ミドル層、マネジメント層と階層に関係なく増えています。また人間関係とメンタル疾患の問題を抱えている職場も非常に多くなっています。

組織は、生産性・効率性を高めることも重要なため、研修を企画する側はすぐに見える結果を求めます。ですから研修プログラムを企画する際、具体的な目標設定の仕方、パフォーマンスアップ、モチベーションアップといった内容のご要望が多いのですが、離職や退職、そして心の問題に対して、従来のスキルの習得だけでは立ち行かなくなったという現状です。

ですから、すぐに役立つスキルの習得に加えて、感情トレーニングを組み合わせることが多いです。気持ちが落ち込んだり病気になってからでは冷静に自分と向き合って考えることができなくなりますから、人事の方々も、平常な心での感情コントロールの習得が大切だということを理解して下さるようになったと思っています。

 

背景には「価値観の多様化」が影響している

編集部:そもそも、森さんが実際に企業で働く人たちと接する中で、肌で感じられる
問題や変化はありますか?

森:「価値観の多様化」ですね。これはひと昔前にはなかった大きな変化で、企業に色々な影響を与えていると感じます。様々な思考、雇用形態、成育環境、年齢など職場での価値観は多岐に及び複雑で、なかなか他者の価値観を理解できない、受け入れにくいということが起こっています。
例えば、新入社員をはじめとする若者は小さい頃に叱られた経験がないので、社会人になって職場でミスをして初めて叱られると、もうどうしていいかわからなくなる。一方で、根性論で鍛えられたリーダーや上司はそういう若い人とどう向き合っていいかわからない。上司も部下も双方ともに落ち込みを抱えたまま仕事をし、ひどくなるとメンタル面に影響が及んで、ある日突然出社できなくなる……そんなことも多々あります。

 

編集部:価値観の多様化は怒りとも関係していますか?

森:アンガーマネジメントでは「怒り」の原因は2つあると考えています。その一つが「価値観の多様化」です。私たちは、自分が信じている「○○すべき」と思っていることが目の前で裏切られたときに、イラッとしたり、怒りを発生します。「べき」はその人が持っている価値観で、その人にとっては非常に大切なこと。この価値観の多様化が進むということは、様々な「べき」を受け入れられない人を確実に増やし、結果衝突も増えます。
二つめは、「便利な世の中になりすぎている」ということです。携帯電話でいつでもつながり、24時間コンビニで買い物ができ、時間通りに動く交通機関のある生活……これが当たり前になってしまったがために、自分にとって当たり前のことができなくなると、途端にイラッとくるわけです。ひと昔前なら我慢できていたことができなくなっていますね。

 

怒りをゼロにするのではなく、怒りの構造を知ることが大切

編集部:喜怒哀楽の一つでもある怒りをどのように扱うと良いのでしょうか?

森:よく、アンガーマネジメントは怒ってはいけないとか、怒りをなくすトレーニングと思われがちですが、それは誤解です。
おっしゃる通り、怒りは喜怒哀楽の一つで大切な感情です。決してなくならないですし、なくしてもいけません。イラッとくることやカチンとくることは、日常生活をしていればあって当たり前でそれ自体が問題ということではないのです。

では、何が大事かというと、「怒りの感情に振り回されない」「怒りで後悔しない」ことです。「あんな怒り方しなければよかった…」「ちゃんとあのとき怒っておけばよかった…」といった後悔をしないことがポイントです。
そのために、怒っているかいないかを問題にするのではなく、怒りの構造をきちんと知って、自分がどういう怒りを持ちやすいのか、怒ることと怒る必要のないことを区別すること、自分のタイプを知ることが重要なのです。同時に、相手の怒りのタイプを知ることも大切です。同じ怒られるにしても、「あの人は、ああいう怒り方をするタイプの人なのね」とわかっていれば適度な耐性が持てるので、怒られ強くなります。

 

 

怒りで後悔しないために、「4つの怒り」には要注意

編集部:それでは、その怒りのタイプを教えて下さい。

森:問題となる怒りは4つあります。
それは、1.強度が強い 2.持続性がある 3.頻度が高い 4.攻撃性がある 怒りです。

1.の「強度が強い」はいわゆる瞬間湯沸かし器型でキレやすいタイプです。突然怒り出すので周りも戸惑います。

2.の「持続性」は、根に持つタイプです。思い出しては怒るので、いつまでもその怒りに振り回されます。極端な例では、民族間の争いや宗教戦争など世代を超える怒りもあります。怒りは時間が経つと恨みなど違う感情に成長してしまいます。ストーカーのように病理的な感情になることもあるので要注意です。

3.の「頻度が高い」は、とにかく色々なことが気になるタイプです。電車内での他人のマナー違反、職場での同僚のデスクの散乱などを見ただけでイライラする。こういう人は職場でもしょっちゅうイライラするので場の雰囲気も悪くしネガティブオーラを撒き散らしていることがあります。

4.の「攻撃性」はその矛先が、他人、自分、モノと3つに向きます。他人に暴言を吐く、真面目すぎて自分を責める、手当たり次第モノを投げるなどモノに当たる、そういったことが攻撃性です。

 

編集部:この4つの怒りを持っている人は、アンガーマネジメントのトレーニングで変われるのですか?

森:はい、変われます。トレーニングをしても怒りはなくならないですし、決して仙人のような性格になるわけではありませんが、怒りに振り回されてセルフコントロールできなくなったり、後悔するような怒り方は少なくなります。

そもそも、怒りで失うモノって人間関係、信頼、大事な友人、家族の絆かもしれないし、管理職ならば冷静な判断を下せなくなるとか、あるいは健康を失うこともありますね。高血圧や心疾患・心筋梗塞などは怒りと密接な関係があると言われています。さらに、今問題となっているロードレイジといった交通トラブルでの激しい怒りから、事故や争いにつながり命を失うこともあります。
問題となる4つの怒りを知ることは、自分の人生を後悔しない、そして周りの人を巻き込んで不幸にしないためにも、とても大切なことなのです。

後篇に続く


森 みや子(もり みやこ) MIYAKO MORI

モリプランニング 代表

東京四谷生まれ。株式会社東京放送TBS954キャスターを経て、モリプランニングとして独立。民間企業、官公庁の研修・講演講師、人材育成コンサルタントとしての仕事に従事。新入社員から管理職まで幅広く、多岐にわたるテーマでの研修や講演を実施。職場環境向上、面談、アセスメントの他、スピーチ、プレゼンテーションのパーソナルレッスンを受託。講師歴は25年。年間150日以上登壇。日本アンガーマネジメント協会認定シニアファシリテーター、レジリエンス認定講師

URL http://www.morimiyako.com/


編集:COCOLOLO ライフ magazine 編集部


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