自分の幸せに軸を置いた言葉が出始めるとき、それが「うつ」回復のサインです。 看護師・保健師・産業カウンセラー 吉川淳子さん  前篇


今回の「こころトーク」のゲストは、看護師、保健師で、「うつ」回復を専門とするカウンセラーである吉川淳子さん。
2000年代のはじめ、500人の事業所の健康管理室を保健師として一人で担当する中で、メンタル不調者、「うつ」病の増加を目の当たりにして、真の健康は心の健康にあることに気づきます。
そしてカウンセラーの道へ進み、「絶対諦めない」を信条に95%は「うつ」から回復できると伝えます。一方で、聴いたことはすぐに忘れるからカウンセラーは天職と明るく語るその背景には、実は自身の厳しい母親から生き延びる術が「何を言われても忘れる」ことだったという事実が。それゆえに未来の子どもたちが同じような体験を繰り返さないようにお母さんたちを支えたい気持ちも人一倍強く持っています。
経験から導き出した「うつ」回復を見極めるポイントから、実は多くの大人の苦しみに深く関わっている毒親の弊害などにも話が及んだ今回のインタビュー。前篇、後篇2回に渡ってお届けします。


 

小さな事業所を一人で切り盛りした保健師時代。健康な体のためには何よりも「心の支え」が必要だと気づいた

編集部:吉川さんは、看護師や保健師の資格もお持ちですが、何がきっかけでカウンセラーになられたのですか?

吉川:当時はまだ珍しかった四年生大学の看護学部を卒業して、まず始めは病院で三交代制の看護師をしていました。しかし、五年くらいたって体力的にもきつくなって、夜勤のない企業の保健師になりました。

14年間保健師の仕事に携わりました。研究所と工場がある500人程度の小さな事業所で、私が一人で社員の健康面を全てみていましたが、当初看護師であり保健師でもある私の主な仕事は、健康診断の結果をみて栄養や運動の指導をすることがほとんどで、主に身体の面のサポートをしていました。

ですが、健康管理室に勤務した後半戦、明らかにメンタル面の不調や「うつ」になる手前の人が相談に来ることが増えたのです。2000年代後半の頃のことです。
社員は健康のアドバイスを受けにきても、話を聴くうちに次第に家庭や職場の人間関係や精神的な悩みの話になってくるのです。そういった状況の中で、「カロリーを減らして!」とか「運動して!」とか身体のことばっかり言っていてもしょうがないな、、、と思うようになりました。
結局人間は、気持ちが元気じゃないと身体も元気にならないということを目の当たりにして、「心を支えたい」という気持ちがどんどん強くなったのです。

 

編集部:500人の社員の心や体を一人でサポートするのは大変ですね。

吉川:500人に1人の保健師という割合は企業の取り組み規模としては恵まれている方です。ですが、この事業所、実は2001年当時、吸収合併された側の会社の事業所でした。人員整理が行われたところに間接部門として健康管理室を作ったという背景があったので、出来たばかりの頃は、切り盛りするよそ者の私への社員の目はとても厳しかったです。

そのような中、メンタル不調者が後を絶たなくなり、私は健康管理室を、ちょっとした辛いことがある時にふらっと顔を出せる、そんな立ち寄りやすい場にしたい一心でした。会議の後に、誰もが「最近こんな感じなんですよ~」と立ち寄れる場所にすることに懸命でした。

 

「名カウンセラーだね」の一言に、カウンセラーっていいかもな~と思うように

編集部:そうやって社員のみなさんと接する中で、何か変化はありましたか?

吉川:そうですね。次第に気軽に健康管理室を訪ねるようになり、だいたいみなさん初めは泣きながら話をして、何度か来てくれるうちに元気になっていくのです。じっくり話を聴くことで心を支えている手ごたえを感じるようになりました。

そして、ある人が元気になったとき、「吉川さんすごいね。名カウンセラーだね」と言ってくれたのです。その時、「カウンセラーっていいかもな~」と考えるようになりました。
そこから数年は保健師でいくかカウンセラーでいくか、本当に自分がやりたいのは何かを探っていましたが、結局今はカウンセリングルームを開設して、現在は心を支える仕事をメインに行っています。

 

「うつ」の支援で最もエネルギーを注ぐのは、クライアントとの信頼関係を築く「初回」面談

編集部:吉川さんは、「初めて「うつ」病になったら絶対私と出会ってほしい!」とメッセージされています。「うつ」の支援の長いスパンの中で、一番難しいと感じるのはどの段階ですか?

吉川:もちろんそれぞれの段階で大変ではありますが、やはり初期、中でも初回でしょうか。とにかく信頼を築くために全エネルギーを注ぎ込みます。
初回からマズいと感じたら積極的に介入します。「死なないでね」というのはもちろんのこと、電話やメールを使って密に連絡をとれるようにします。

自殺の危険があるようなケースこそ、そばで誰かが心配しているということをきちんと伝えることが重要です。初回で信頼関係が出来ていれば、「3日後に必ず来てね」という約束を取り交わしてもちゃんと来てくれます。

 

辛さの発信相手に使ってもらって、クライアントの前進を客観的に認めるのがカウンセラーの役目

編集部:では、カウンセリングを重ねてきた途中段階はどのようなことを心がけておられますか?

吉川:カウンセリングが進んだ段階でも、人は長年生きて来たクセに戻るケースが多々あります。
多く見られるのは、次のカウンセリングの約束の日まで、辛いことがあっても我慢して一人で抱え込むケースです。辛い思いを我慢してきてようやく私のところへ辿り着いて良くなり始めたのに、また元々の癖へ戻ってしまうのです。

そういうとき、私は、「(気持ちが)下がりそうだなと思ったら、落ちる手前で私にちゃんと発信して」と言います。辛いときに辛いと言う、その発信する相手に私を使ってもらいたいのです。時には、「もう前のように、苦しみたくないでしょ。「うつ」になったからには、あなた自身も学んでね」と、強めに伝えることもあります。

 

編集部:でも、その言葉は信頼関係があるからこそ言える言葉ですよね。あなたはもう自分の辛さを発信することが出来る人なんだよ、と認められて伴走してもらえている感じがしますね。

吉川:そうですね。クライアントは自分が「前に進んでいない」と思って焦ることがよくあります。でも、実際には、うつ状態になる前と同じように時間を決めて約束をして、時間通り私の所まで会いに来ているのです。そういうできていることがちゃんとある事実をお伝えしながら、「今のこのお休み(治療期間)は、これまでのような自分を苦しめる働き方を変えるチャンスなんだよ」と伝えます。

 

編集部:周りが見えなくなってしまいがちな「うつ」の人にとって、自分を客観視してくれる人がいるのは心強いですね。

吉川:そうです。本人ではなかなか気づけないので、今、そのとき、出来ていることを客観的に伝えるのは大事です。

 

 

「自分の幸せ」に軸がある言葉が自ずと出てくるとき、それが「もう大丈夫」のサイン

編集部:それでは、復職のタイミングではどうですか?

吉川:私は「「うつ」は再発しません」と少し強気に言っていますが、それは、「最初に本当に治っていないだけ」という意味です。
(焦りなどから)本人の復職したいという希望が大きくなると、まだ完全によくなっていないのに、職場復帰をしてしまうようなケースもあります。カウンセラーが復職希望を止める権限をもっているわけではないので、経済的理由などを挙げられると、強く止められないようなこともあります。
でも、私は、何度も復職を希望するクライアントに「まだ、だめ」と言ってきました。経験を積んでいるから「治ってない感」でわかるのです。

 

編集部:具体的には、どんな言葉や態度で、治ってない「感」がわかりますか?

吉川:復職したい理由を聞いたときに、他人主体の表現がでてくる間はまだダメです。

「これ以上周りに迷惑をかけられない」
「家族が心配しているから」
「職場が変われば大丈夫だと思う」

など。人や環境に依存している言葉ではまだ完治しているとは私は思えません。経済的理由や世間体を気にしている間も無理ですね。

 

編集部:では、逆に、もう大丈夫「感」はどうやって得ますか?

吉川:自分の幸せに軸を置き始めれば大丈夫です。自分を客観視して、自分を大切にしている言葉が本人から自然と出てくるときが来るのです。

「次は壊れない程度にやってみます」
「半々でやってみようと思います」

他にも、治ってくると五感がきちんと働くようになるようで、
「景色に色がつきました」
「オブラートがとれました」
「カチッと時計が動き始めました」

といった表現もありました。感じる力が弱っていたのが、しっかり働き始めるときとも言えます。それは私から聞き出すのではなく、クライアントが自ら感じて自ずと私に伝えてくれるものなのです。

 

編集部:独特の表現で、世界が開けた感じが伝わりますね。

吉川:私は、クライアントがカウンセリングを受ける段階で、その人には既に変われる力があると信じています。
そもそも私がクライアントの力を信じないと、たとえカウンセリングを進めても「やっぱり、このカウンセラーでもダメだ・・・」と本人が途中で諦めてしまいます。私のウリは「絶対あきらめない」でもあるのです。

後篇に続く

 


吉川 淳子(よしかわ じゅんこ) JUNKO YOSHIKAWA
看護師・保健師・産業カウンセラー

1988年千葉大学看護学部卒業。聖マリアンナ医科大学病院小児外科病棟看護師、社会保険健康事業財団保健師、看護学校非常勤講師などを経て、化学メーカーの健康管理室の保健師を3人の子育てをしながら14年勤める。2014年カウンセリングルーム シリウス設立。年間の対面カウンセリングはのべ200件以上。企業研修、看護大学非常勤講師、女性専用の電話相談「ボイスマルシェ」専門カウンセラーとしても活躍中。共著『カウンセラー物語〜心に寄り添う21人の軌跡〜』(2018年,湘南社)


編集:COCOLOLO ライフ magazine 編集部


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