職場のバーンアウトを防ぐには、自律性と柔軟性に配慮できる職場環境を創造していくことがカギ

2022年12月- インターナショナルSOS財団(本部:オランダ)とAffinity Health at Workの調査結果では、労働者の4割が燃え尽き感を訴えており、従業員に高い柔軟性と自律性を与えることが雇用主にとっては得策だと考えられることが示されました。Affinity Health at Work(#1)( https://www.affinityhealthatwork.com/ )は、WHO運営グループの委託研究部会にも参加している専門コンサルティング企業であり、2022年9月に発表されたWHOの「職場におけるメンタルヘルスに関するガイドライン」(WHO guidelines on mental health at work)を裏付けるためのエビデンス調査を実施しています。

インターナショナルSOS財団とAffinity Health at Workがまとめた報告書である『Managing Duty of Care for Wellbeing Within a Hybrid Workforce(ハイブリッド業務におけるウェルビーイング上の安全配慮義務)』( https://www.internationalsosfoundation.org/about-us/managing-duty-of-care-for-employee-wellbeing-within-a-hybrid-workforce )では、世界中の労働者から得られたデータを利用して、ハイブリッドな働き方が幸福度やウェルビーイング上の安全配慮義務に与える影響を検討しています。新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、過去3年にわたりハイブリッドな働き方への移行を加速させ、ウェルビーイング上の安全配慮義務に関する期待と責任にも変化を生じさせました。

報告書の調査結果では、労働者の一週間の勤務時間は平均して20%以上増加しており、事前の想定を上回るものでした。また、勤務時間はストレスや精神疾患を引き起こす最重要要因であることが示されています。これは、労働関連の専門家の多くが指摘してきたように、労働者の心が仕事から心理的に離れ、必要最低限の労働しかしなくなる「静かな退職(Quiet Quitting)」が増加傾向にあることの証左の1つとなっている可能性があります。

同調査が示しているのは、労働者の精神的幸福度の向上につながる場合が多い自律性や柔軟性の効力を雇用主が認識すべきだということです。労働構造にかかわらず、自らの仕事を管理し、それに対して権限を有するという感覚を持つことは多くの場合極めて重要であり、自律性の確保は多くの労働者にとって重要な問題となります。自律性が確保されていると報告した従業員は、責任の明確化や上司および同僚との関係の向上により、概して高い満足度を示し、上司や同僚にメンタルヘルスの問題を打ち明ける割合が高まることが分かっています。

インターナショナルSOSのウェルネスおよびメンタルヘルス部門でグローバルヘルスアドバイザーを務めるRodrigo Rodriguez-Fernandez医師は、「職場での燃え尽きは紛れもなく、ハイブリッドワーカーと非ハイブリッドワーカーのいずれもが感じている問題です。いずれの労働環境にも独自の課題があり、雇用主はそれらに対応できるメンタルウェルネス対策を講じる必要があります。たとえば、ハイブリッドワーカーは仕事の柔軟性向上に伴い幸福感を得られるかもしれませんが、メンタルヘルスの意識に関して対面でトレーニングを受ける機会を失う可能性もあります。このような問題では、従業員の声に耳を傾けることが不可欠です。従業員がメンタルヘルスと幸福度に関して権限を与えられていると感じることがいかに重要であるかを今回の調査は明確に示しているのです」と述べています。

組織における戦略的優先事項としての幸福度

同調査で強調されている従業員の燃え尽き度の上昇や幸福度の低下が示しているのは、メンタルヘルスと幸福度をサポートすることが組織の戦略的優先事項として重要であるということです。

また、これらへの対策を組織で講じるには従業員の要望や期待を理解することが必要であり、ハイブリッドな労働環境であるかどうかに関係なく、従業員の幸福度をサポートしようとする雇用主にはそれぞれに適したソリューションを幅広く提供することが重要になります。

同調査は、健康に関するトレーニングやホットラインの導入だけでは不十分な場合があることを示しています。組織では、国ごとに効果的とされる活動が異なることも考慮しながら、従業員の幸福を幅広い方法でサポートする必要があります。

多様なサポートの提供を通じて従業員の要望を認めることは、最終的には組織内での公平性の認知度向上につながります。このアプローチは、大量離職時代に対処しつつ生産性レベルを維持し、従業員の精神的回復力を保つうえでも役立ちます。

Affinity Health at Workで取締役を務める公認産業心理士のRachel Lewis博士は、「ウェルビーイング上の安全配慮義務は、これまで以上に責任を伴うものになっています。組織は多様な要望に応えるだけでなく、柔軟な労働形態に留まらないサポートをさらに提供することも必要です。しかし、それらの対策を講じる際は、第三者のサポートも重要になります。外部の専門家の助言は極めて重要となる場合が多く、組織が譲歩しつつ従業員の要望を適切に理解するのに役立ちます。このようなサポートにはトレーニング、メンタルヘルス評価、短期のカウンセリングなどがあり、調査対象者の3/4以上がメンタルヘルスと幸福度の向上にそれらが効果的であるとしています」と述べています。

また、「予防は、メンタルヘルスと幸福度に関する鍵となります。精神疾患の予防プログラムへの投資は、投資収益率を最大限に高められる投資だと言えます。ただし、ほかのあらゆるサポートと比べても、総合的な柔軟性の提供がすべての労働者から最も高い評価を受けていることには留意が必要です」とも述べています。

燃え尽き症候群の発生や幸福度の低下に対策を講じる組織へのABCDアプローチの勧め

1.    ADAPT:戦略的優先事項としてすべての従業員の健康と幸福をサポートするよう配慮する。幸福増進プログラムは、ストレスを認識し管理するための多様なリソースを提供し、苦しんでいる人をサポートするものであることが期待されます。ただし、今回の調査は、前向きな幸福の実現には健康的な職場環境を構築できるようにする予防的アプローチに注力することが鍵となることを示しています。

2.    BUILD:勤務時間および仕事量に応じたソリューションを構築する。勤務時間と仕事量が世界中の労働者の課題となっていることが分かっています。戦略的作業グループを立ち上げてその解決に重点的に取り組んだり、それをよりローカルな作業部会に段階的に移管したりすることが有効な場合があります。

以下に、勤務時間と仕事量の削減に効果的とされる対策を示します。

  • 組織全体が一定期間休業する「リカバリーブレイク」を推進する(これは、年1~2回の1か月に及ぶ対策となることも、会議がない午後を毎週設ける対策となることもあります)。
  • プロセスを合理化して不必要な繰り返しを排除する。
  • チーム内での自律性を高め、仕事量の割り振りや作業の優先順位付けに関する裁量を与える。

3.    CREATE:従業員の要望や期待を理解することに時間をかけ、各種の業務やプロセスを実行するための環境作りをする。今回の調査は、(労働形態、職務内容、および大陸の違いに応じて)労働者が求める実践例やサポート案は異なる可能性が高いことを示しています。一人ひとりの従業員にオーダーメイドで取り決めを作ることは非現実的かもしれませんが、組織は時間をかけて従業員のプロフィールを確認する必要があります。大半の従業員の要望に応えられるような選択肢を提供することで、個人差を認識し、公平性の認知度を高められるようにする必要があります。組織は、組織、チーム、および個人のそれぞれの都合を考慮しながら、可能な限り遂行する職務や個人的な状況に最も合った労働形態を選択できる機会を従業員に与える必要があります。また、これらの交渉を柔軟に行えば、従業員の意欲と満足度が向上するというメリットも生じます。

4.    DEVELOP:ハイブリッドな働き方を選択できない従業員の満足度を適切に観測するシステムを充実させる。労働形態に関する意思決定を行う際は、従業員からの直接的なフィードバックを考慮に入れる必要があります。特に女性からのフィードバックを重視すべきです。今回の調査では経験および不公平性への意識の違いが示されています。ハイブリッドな働き方に関して上級責任者と部下との間で起こり得る認識の違いに対処するには、情動面の結果を適切に観測し継続的に分析することが有効です。これは、地理的な差異の配慮にもつながります。

報告書では、特に仕事のストレス、燃え尽き、および孤独感といった情動面の結果が調査されました。

図13:情動面の結果

これらの結果では、燃え尽きに最も高いスコアが集まっており(上位2カテゴリの40%)、労働者に高度な疲弊感があったことを示唆しています。これは、燃え尽きを強く感じている人を約20%と推定する母集団よりも高くなっています。最も肯定的なスコアは孤独感と関連しており、下位2カテゴリの労働者の割合は42%でした。これらの結果のすべてにおいて、ハイブリッドワーカーと非ハイブリッドワーカー、およびそれらの中間の労働形態を取る労働者との間に有意差は認められませんでした。ただし、特に管理責任を伴うハイブリッドワーカーの孤独感は有意に低いものでした。アフリカの労働者は、他国の労働者と比較して仕事のストレスと孤独感を高い水準で訴えていました。

 メンタルヘルス三部作
『Managing Duty of Care for Wellbeing Within a Hybrid Workforce』は、インターナショナルSOS財団がAffinity Health at Workと協力して取り組んだ一連の調査研究の3作目です。2019年の1作目では業務上の出張における心理的影響に焦点を当て、2021年の2作目ではローテーション型リモートワークにおける心理的影響について調査しました。

Keeping International Business Travellers Safe and Happy, at Home and Away
http://learn.internationalsosfoundation.org/Psychology_Study

The Psychological Impact of Remote Rotational Work
https://www.internationalsosfoundation.org/remote-rotational-worker-survey

#1:同調査では、根拠に基づく実践型(EBP)のアプローチが取られており、学術文献、医療従事者向け文献、ローカルコンテキスト、専門家、影響を受ける側(この場合は幅広い労働形態で就労する従業員)といった多数のソースからのエビデンスを採り入れています。また、これらの3段階のエビデンスを組み合わせることで、最も的確に状況を把握しつつ、それに基づいたアドバイスを提供しています。同調査のアンケートでは、1,069件の回答が得られ、幸福度の管理に関するハイブリッドワーカーの体験、要望、および期待をさらに深く理解するためのデータとして分析されました。

インターナショナルSOS財団について

安全配慮義務のアンバサダーとして10周年を迎えたインターナショナルSOS財団は、従業員の安全、セキュリティ、健康、ウェルビーイングを守るためのベスト・プラクティスを推進しています。画期的な理念によるリーダーシップ、CPD、IOSH認定のトレーニング、専門家によるイベントなどを通じて、重要な洞察や理解、実践的なリスク軽減策を共有することに貢献しています。すべての従業員は、どこにいようとも保護される必要があります。COVID-19のパンデミックにより、組織が対処すべき安全配慮義務の状況は進化し、複雑なものになりました。

当財団は2011年にンターナショナルSOSからの助成金で設立された登録慈善団体であり、完全に独立した非営利団体となっています。安全配慮義務とインターナショナルSOS財団の詳細についてはhttp://www.internationalsosfoundation.org/ をご覧ください。

 


 

掲載元:PR TIMES

Selected by COCOLOLO ライフ magazine 編集部