職場で「自律性(創意工夫の余地)」を求める人は“シェアド・リーダーシップ”を求める傾向に

 企業における経営・人事課題の解決および、事業・戦略の推進を支援する株式会社リクルートマネジメントソリューションズ(本社:東京都品川区 代表取締役社長:山﨑 淳 以下、当社)は、新型コロナウイルスの発生以降、現在も同じ会社で勤務しており、従業員規模300 名以上の企業に勤務の正社員493 名に対し、2022年9月に「職場のシェアド・リーダーシップに関する実態調査」を実施し、その調査結果を公表しました。
*詳細は調査レポート(https://www.recruit-ms.co.jp/issue/inquiry_report/0000001112/)をご参照ください。
1.調査の背景
さまざまな環境変化にすばやく対応することが求められる今日の企業において、職場のリーダーが強い影響力を発揮するだけでなく、メンバーがお互いに影響力を発揮し合う「シェアド・リーダーシップ」が注目されています。シェアド・リーダーシップが職場で実現すれば、ビジネスの正解がない時代に1人の組織上のリーダーだけが方向を示すことの限界を緩和することができるだろうと期待されています。一方で懸念点もあります。リーダーシップが多くの人に分散することで、職場に混乱を生じたり、パフォーマンスが低下したりすることはないでしょうか。また、シェアド・リーダーシップを推進することで、リーダーへの期待が低くなったり、リーダーが不要になったりすることはないでしょうか。これらの問いを明らかにするべく、本調査を実施しました。2.調査の結果
8 割以上がシェアド・リーダーシップは「重要」と回答(図表1)
・職場でのシェアド・リーダーシップの重要性について、考えを尋ねたところ、「とてもあてはまる(9.7%)」「あてはまる(37.5%)」「ややあてはまる(36.9%)」の合計は84.2%で、8割以上がシェアド・リーダーシップを重要だと答えた。
⇒メンバーが他のメンバーに対して水平的な影響力を発揮していくという考えは、広く受け入れられ、重要だと考えられていることが分かる。図表1 シェアド・リーダーシップの重要性についての考え

職務特性によってはポジティブ回答が9 割以上(図表2)
・シェアド・リーダーシップを重要だと考える傾向は、回答者の年代、職場の形態、職場人数の違いによって、分布に有意な差は見られなかったが、職務の特徴により差が見られた。
・職場で主に行われる職務の特徴として、「自律性(創意工夫の余地)」「相互依存性(協働の必要)」「多様性要求(多様な意見の必要)」が高いと回答(6段階中「6.とてもあてはまる」「5 .あてはまる」「4.ややあてはまる」を選択)した高群は、そうでない低群と比べて、シェアド・リーダーシップが重要だと考える割合が有意に高く、「とてもあてはまる+あてはまる+ややあてはまる」が、9割を上回った。
⇒メンバーそれぞれが仕事にアイディアを生かしたり新鮮な試みをしたりする余地がある職務や、メンバーがお互いに力を合わせる必要がある職務、多様な意見を生かす必要がある職務は、メンバーによる積極的なリーダーシップの発揮を特に必要とすると考えられる。

図表2 シェアド・リーダーシップの重要性についての考えと職務特性

統制の必要性が高い職場ではシェアド・リーダーシップに否定的な意見も(図表3)
・シェアド・リーダーシップの重要性を高いと考える、あるいは低いと考える理由を、具体的に記述してもらった。主なものを抜粋したものが図表3である。
・シェアド・リーダーシップの重要性_高群の理由として、1つには『多様な知見の重要性』がある。「普段発言しない人が驚くほどある業務の専門知識をもっていた」「身近に問題解決につながる材料をもっている人がいた」「リーダーが知らないことをメンバーが知っていることがある」など、メンバーがもつ多様な知見を生かした影響力が、職場の成果につながった経験がいくつも見られた。
・2つ目として『環境の複雑さへの対応』である。「リーダー1人では対応できる限界がある」「現場をよく知る者の影響力は大きい」などが挙げられた。
・3つ目は、『ミス・不正・暴走・滞りの防止』である。「全員が責任をもって取り組む」「他のメンバーと情報を共有し合う」ことが必要だから、などのコメントが見られた。現場で生じる予測外の出来事に対し、すばやく対応するために、メンバー全員のリーダーシップは有効だということだろう。
・一方、シェアド・リーダーシップの重要性_低群の理由としては、「分業されているのでメンバーの影響力は不必要」「流れ作業なので勝手に動くとうまくいかない」などがあった。
⇒『統制の必要』が高い職場、職務では、メンバー相互の影響力は、必要ない、トラブルの元になるリスクがある、など否定的に捉えられていた。他には、『メンバーの力量不足』『組織の硬直』のため実現が難しいというコメントも見られた。このような阻害要因が、取り除かれる見通しがない場合、シェアド・リーダーシップは不要と考えられるようである。

図表3 シェアド・リーダーシップについての考えに対する理由

半数以上のメンバーがリーダーシップをとる職場は約5~6 割(図表4)
・シェアド・リーダーシップの測定方法はいくつかあるが、今回は、先行研究*1を参考に、3種類のリーダーシップについての項目を、それぞれどのくらいのメンバーがシェアしているかを次のような選択肢で尋ねた。変革型リーダーシップ(目的や高い理想を掲げて行動し、周囲の挑戦を喚起する)、支援型リーダーシップ(周囲の自主的行動やチームワーク、自己啓発を促す)、統率型リーダーシップ(目標や指示命令を出す)の3項目について、それぞれ4段階(「4.多くのメンバーが行っている」「3.半分くらいのメンバーが行っている」「2.特定のメンバーが行っている」「1.ほとんどのメンバーは行っていない」)で回答を得た)。*1 Pearce, C. L., & Sims Jr, H. P. (2002)
・9項目のうち、自職場の半分以上の人が行っている(「4.多くのメンバーが行っている」+「3.半分くらいのメンバーが行っている」)割合が多かったのは支援型リーダーシップの「5.職場内でコミュニケーションが活発に行われるよう促している(62.3%)」、次いで変革型リーダーシップの「1.職場の目的について積極的に意見を述べる(57.4%)」、統率型リーダーシップの「9.他のメンバーの仕事にミスや誤りがないかチェックする(56.0%)」だった。上位3つが、3種類のリーダーシップそれぞれに該当し、メンバーのリーダーシップにも、さまざまなタイプがあることが分かる。
・少なかったのは、統率型リーダーシップの「8.他のメンバーの仕事の目標を決定して伝える(47.3%)」「7.他のメンバーの仕事のやり方について指示を行う(49.3%)」と、支援型リーダーシップの「4.他のメンバーが新しいことを学ぶよう促している(48.5%)」であり、特に「8.他のメンバーの仕事の目標を決定して伝える」は、「ほとんどのメンバーは行っていない」が約2割見られた。これらは公式のリーダーが行うことが多いようである。
⇒このように項目別に多少の差はあるものの、9項目総じて見ると、メンバーの半分以上が他のメンバーに影響力を発揮している職場は約5~6割であるといえる。この割合が、各職場にとって十分なのか、そうでないかは、一概にはいえないところだが、8割以上が「シェアド・リーダーシップは重要」だと考えている(図表1)という結果からすれば、実際にはそれが十分に実現できていない職場も一定数あると言えるだろう。

図表4 シェアド・リーダーシップの実態

シェアド・リーダーシップに影響する条件とは(図表5)
シェアド・リーダーシップの発揮を示す値として、メンバーのリーダーシップ行動9項目を平均して1つの尺度として用い、リーダー、メンバー、風土の特徴との関係を確認したところ、図表5のとおり「リーダーのリーダーシップ(変革型、支援型、統率型)」「メンバーの知識・スキルの高さ」「企業の包摂的風土」において、シェアド・リーダーシップの発揮との関係が見られた。
・リーダーのリーダーシップは、メンバーのリーダーシップ項目(図表4)をリーダー向けの表現に調整したものを用いて測定し、「変革型リーダーシップ(3項目6件法)」「支援型リーダーシップ(同)」「統率型リーダーシップ(同)」とリーダーシップタイプごとに尺度化して用いた。
・いずれのリーダーシップにおいても、高群、低群で、シェアド・リーダーシップの値に有意な差が見られた。どのタイプのリーダーシップも、職場や状況に応じてうまく発揮されれば、メンバーのリーダーシップを促すといえるだろう。
・一方、メンバーにおいては、「保有している知識・スキルが総じて高い(単項目、6件法)」の高群、低群で、シェアド・リーダーシップの値に有意な差が見られた。それぞれのメンバーが知識・スキルを高めることは、シェアド・リーダーシップの発揮につながると考えられる。「異なる視点を大事にする文化がある」「従業員の意見を積極的に取り入れる」といった「企業の包摂的風土(6項目6件法)」も、高群、低群で、シェアド・リーダーシップの値に有意な差が見られた。
⇒企業全体として、多様な視点や意見を取り入れようとする文化が育まれていることは、各職場におけるメンバーのリーダーシップ発揮を促進することが示唆された。

図表5 シェアド・リーダーシップとリーダー、メンバー、風土の特徴〈 n=493〉

●リーダーに求めるのは明確な指示と意見の傾聴(図表6)
・シェアド・リーダーシップの発揮とリーダーのリーダーシップの関係については、別の観点からも見てみた。今回の調査では、「一般にリーダーに望むこと」について、12項目から上位3つまで選択してもらった。
・シェアド・リーダーシップ高群、低群ともに、「2.指示が明確である(高群49.4%、低群57.5%)」「12.メンバーの話に耳を傾ける(高群50.2%、低群55.5%)」の項目が高かった。シェアド・リーダーシップの発揮が高い職場でも、そうでない職場と同様、リーダーに対して、「明確な指示を出すこと」と「メンバーの話を傾聴すること」の両方が望まれているという結果は、先の『変革型』『支援型』『統率型』リーダーシップがいずれもシェアド・リーダーシップを促進する、との結果と呼応する。
・シェアド・リーダーシップ高群が低群に対して有意に高かった項目は1つあり、「10.多様性を重んじる(高群19.2%、低群9.4%)」だった。
⇒こちらも先に述べた、シェアド・リーダーシップの発揮と企業の包摂的風土の関係と通じるものがある。

図表6 リーダーに望むこと

●職場パフォーマンスに効くリーダーシップとは(図表7・図表8)
「会社が期待する以上の成果をあげている」「会社に重要な貢献をしている」など3項目による『成果/貢献』、「変化にうまく対応している」「決定事項が、すぐに実行に移される」など3項目による『変革/実行』、「メンバーは、職場の仕事にやりがいを感じている」「メンバーは、現在の職場で働くことを通して成長できると感じている」など3項目による『やりがい/成長』の値は、いずれも、シェアド・リーダーシップ高群と低群間に、有意な差が見られた。
・リーダーのリーダーシップの程度も加味して確認したところ、リーダー、メンバーともにリーダーシップが発揮された群(リーダー高/シェアド・リーダーシップ高 )は、『成果/貢献』『変革/実行』『やりがい/成長』のいずれにおいても、他群と比べ最も高い値を示した。
⇒シェアド・リーダーシップは職場のパフォーマンスを高める効果があるが、それは、リーダーのメンバーに対する十分な影響力と合わさったときに最大になるといえる。

図表7 シェアド・リーダーシップと職場のパフォーマンス〈n=493〉

図表8 リーダーとメンバー双方のリーダーシップとパフォーマンス〈n=493〉

リーダーとメンバーが相互に影響し合う職場を(図表9)
・図表9は、リーダーの重要性に関する2項目について「6.とてもあてはまる」から「1.まったくあてはまらない」の6段階で回答を得た結果である。
・シェアド・リーダーシップの重要性についての回答の高群(「6.とてもあてはまる」「5 .あてはまる」「4.ややあてはまる」)と低群(「3.あまりあてはまらない」「2.あてはまらない」「1.まったくあてはまらない」)別に平均を見ると、「組織業績はリーダーの良し悪しで決まる」「難しい状況では、リーダーが明確な方針を出すことが大事だ」のいずれも、シェアド・リーダーシップの重要性_高群の方が有意に高い。
⇒シェアド・リーダーシップが重要だという人は、同時にリーダーの重要性を認識している。
⇒1人のリーダーが方向を示すことの限界があるといわれる今日だが、それはリーダーが不要だということではない。職場メンバーがそれぞれリーダーシップを発揮するには、明確な方向性を示しつつ、多様な意見に耳を傾け、メンバーの知識・スキルを生かし、自律的な工夫や協働が生まれる職務を設計するリーダーのリーダーシップが必要である。それに応じて、メンバーの一部ではなく多くが、職場内で相互作用的に影響力を発揮し合うシェアド・リーダーシップが実現すれば、職場の変化対応力を高め、職場を強くしていくのに役立つだろう。

図表9 リーダーの重要性についての考え

3.調査担当研究員

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
組織行動研究所 研究員 佐藤 裕子
1990年にリクルート入社。法人向けのアセスメント系研修の企画・開発、Webラーニングコンテンツの企画・開発などに携わる。その後、公開型セミナー事業の企画・開発などを経て、2014年より現職。研修での学びを職場で活用すること(転移)に関する研究や、機関誌の企画・編集などに携わる。

4.組織行動研究所のコメント

 

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
組織行動研究所 所長 古野 庸一

シェアド・リーダーシップを進めるための施策とは
シェアド・リーダーシップを進めることは容易ではないが、今の時代として注目に値する考え方であり、ここでは促進するための施策をまとめてみたい。
施策として第一に取り組むことは、組織の目的や目標を明確にすることである。この組織は、どういうことを達成するために存在するのか。明確でない場合には、改めて明確に定めることが肝要である。メンバーからの意見を促すために、目的や目標をメンバーと共に作ることも得策である。組織の目的や目標は、メンバーが意見を言う際のガイドラインになる。目的や目標に沿っている意見を取り上げることによって、多様性の担保と組織目的の統合を図っていく土台になる。
その上で、「メンバーが自分の意見を言うこと」「反対意見であっても尊重すること」を明言しておくことが2つ目の施策になる。その際、多様な意見に対して、上司は感謝していく姿勢が望まれる。上司自身も、単にメンバーを支援するだけでなく、自分自身の意見を言うことは必須である。今回の調査結果(図表6)において、シェアド・リーダーシップが行われている職場でも、上司に求めることとして、「メンバーの話に耳を傾ける」ことと共に「明確な指示」が高く支持されていた。ただ、上司の意見は絶対ではなく、よりいいものにするためにメンバーの意見も必要だということを明言していくことで、メンバーの意見を制限させない配慮が不可欠である。
一方で、メンバーも責任ある言動が望まれる。組織全体の目的や目標に反する言動を許してしまうと、組織として運営するのは難しくなってしまう。メンバーが何を言ってもいいのかを判断するためには、情報が必要である。社会における自社の位置付けや経営情報の開示によって、メンバーも責任ある発言ができるようになるし、上司や他のメンバーの発言に対しても責任ある応答ができるようになると考えられる。
正解がなく、想定外の出来事が頻繁に起こる現在、シェアド・リーダーシップという考え方を会社や職場に取りいれていくことをお勧めしたい。

5.調査概要

※調査実施は株式会社マクロミルに委託

リクルートマネジメントソリューションズについて

ブランドスローガンに「個と組織を生かす」を掲げ、クライアントの経営・人事課題の解決と、
事業・戦略推進する、リクルートグループのプロフェッショナルファームです。日本における業界の
リーディングカンパニーとして、1963年の創業以来、領域の広さと知見の深さを強みに、人と組織の
さまざまな課題に向き合い続けています。

●事業領域:人材採用、人材開発、組織開発、制度構築
●ソリューション手法:アセスメント、トレーニング、コンサルティング、HRアナリティクス
また、社内に専門機関である「組織行動研究所」「測定技術研究所」を有し、理論と実践を元にした
研究・開発・情報発信を行っております。

※WEBサイト:https://www.recruit-ms.co.jp

 


 

掲載元:PR TIMES

Selected by COCOLOLO ライフ magazine 編集部