活動低下が心配…外出制限により幼児も保護者も歩数が減少。3~5才児では2~6割減
■調査結果概要
- 幼児も保護者も歩数が減少。影響は幼児の方が大きく、3~5才では2~6割減
- 外出しないことが幼児の歩数減の大きな要因
- 外出しないときも工夫次第で幼児の活動量は増える
- 1~2才では、親子で一緒に活動することが幼児の活動量増につながる
- ストレスを感じたり生活リズムが乱れたりした幼児も少なくない
■背景
順天堂大学の内藤教授の研究グループは、子どもの活動量、体力や健康に関するさまざまな研究を行ない、子どもの発育・発達に役立つ研究成果を発信してきました。一方、花王はベビー用おむつ開発の基礎研究として、子どものすこやかな発育・発達と歩行の関係について研究を重ねてきました。本研究は、両者が共同してその知見を活用し、緊急事態宣言が幼児の活動にどのような影響を与えたかについて、歩数計測を中心に調査し、分析したものです。
なお、順天堂大学と花王は、互いの研究知見や施設を活用した産学連携により、現場のニーズに即した革新的な技術開発とその早期実用化を推進したイノベーションの創出をめざして、2015年に研究包括契約を締結しています。本研究は、この研究包括契約の成果のひとつです。
■調査目的
新型コロナウイルスの感染拡大により緊急事態宣言が発出され、「ステイホーム」が求められた2020年4月以降、幼稚園や学校などの休園・休校によって小学生から大学生のみならず、幼児の生活も大きく変化しました。自宅で過ごす時間が増え、遊ぶ場所や運動する機会が減少するなど、これまでとは異なる生活が始まったことで、子どもたちの健康や体力への影響が心配されてきました。
そこで今回、研究グループは、外出や遊びの場面において親との関わり合いが多い就学前の幼児(1~5才)に着目し、幼児とその保護者(母親)を対象に、緊急事態宣言により行動が限られた環境下での活動実態を調べました。幼児とその保護者に歩数計を装着してもらい、歩数計測とアンケート調査を実施することで、親子の活動実態やそこで生じている課題を速やかに把握し、“新しい生活様式”に対応した解決の糸口を探ることをめざしました。
■調査概要
- 調査期間:2020年5月1日~2020年5月14日
- 調査対象:首都圏在住の1~5才の幼児とその保護者(母親。27~43才、平均年齢34.1才)41組(保護者41名、幼児53名)花王が保有するモニターパネルから抽出
- 調査方法:歩数計による歩数計測(幼児とその保護者)、日誌記録(外出の有無、過ごした場所、通園の有無など)、アンケート回答(緊急事態宣言前と比較して変わったこと・困っていること、外に出る時に気をつけていること、家の中で過ごす時に工夫していることなど)
<調査結果>
【1】幼児も保護者も歩数が減少。影響は幼児の方が大きく、3~5才では2~6割減
調査期間中の幼児の一日あたり平均歩数は1~5才で6,938歩、3~5才では6,702歩でした。
3~5才の歩数の先行研究は豊富ですが※1、それらによると3~5才の歩数は幼稚園や保育園に通園する平日に多い傾向があり、平日の平均歩数は9,686~15,278歩、休日の平均歩数は8,238~11,207歩です。しかし今回は、多くの幼児が期間中通園していなかったことから平日と休日の差はあまり見られませんでした(図1)。さらに、3~5才の歩数は先行研究に対して約2~6割少なく、特に先行研究の平日と比較すると大幅減になっています。保護者へのアンケートでも「子どもが運動不足になっている」という回答は多く、その認識と一致する結果になっています。
一方、保護者の一日あたりの平均歩数は5,885歩でした。日常生活における歩数は、厚生労働省の国民健康・栄養調査(2018年、20~39才女性)では6,535歩※2、花王が行なった先行研究1)における1~5才の母親では7,363歩であり、その減少率は約1~2割にとどまっています。大人よりも子どもの方が、活動に対する影響を大きく受けたことが分かります。
※1 参照した先行研究。なお、先行研究から引用した数値は一部、平均をとるなどの再集計を行なっている
1) 杉浦弘子 他、小児の四季の歩数調査、小児保健研究、(2012) 第71巻2号,242-249.
2) 秋武寛 他、幼児の運動能力に対する歩数および運動強度との関係、発育発達研究、(2016) 70号,17-26.
3) 中野貴博 他、幼児における一日の運動強度の変化パターンの分類と平均歩数および生活習慣、健康状態との関係性、発育発達研究、(2016) 70号,55-65.
4) 海老原修 他、子どもの日常的歩数の同定、発育発達研究、(2011) 51号,92-100.
5) 中野貴博 他、生活習慣および体力との関係を考慮した幼児における適切な身体活動量の検討、発育発達研究、(2010) 46号,49-58.
6) 塩見優子 他、加速度計を用いた幼児の日常生活における身体活動量についての研究、発育発達研究、(2008) 39号,1-6.
7) 加賀谷淳子 他、歩数からみた幼児の身体活動の実態;子どもの身体活動量目標値設定にむけて、日本女子体育大学基礎体力研究所紀要、(2003) 13巻,1-8.
※2 厚生労働省の国民健康・栄養調査(2018年)より、20~39才女性の平均値
【2】外出しないことが幼児の歩数減の大きな要因
調査期間中の歩数は外出の有無に影響されており、外出しないと1~2才では約3割減、3~5才では約4割減と大きな減少幅になっていました(図2)。これにより、3~5才だけでなく先行研究が乏しかった1~2才も含めて、外出が制限されることが歩数減の大きな要因になったことが推察されます。
【3】外出しないときも工夫次第で幼児の活動量は増える
外出していないときに保護者が幼児の活動を促す工夫をすると、幼児の歩数が増える傾向がありました(図3)。具体的には次のような声が挙がっており、外出しづらいときに減少しがちな活動量を少しでも取り戻すためのヒントになります。
- なるべく一緒に体を動かすことができるような動画などを見せて遊ぶ。庭で思いきり遊ばせる。階段の昇り降りで運動不足にならないように遊ばせている。
- 運動不足になってほしくないため、家の中でトランポリンや室内用鉄棒で遊ばせている。時間をかけてでも家事を手伝ってもらう。洗濯ものをたたむ、お片付けなど。
- 室内遊びを増やす。トランポリンを導入しました。お父さんが相手できるときは、かけっこなどを中心にやってもらいました。
- おうちで楽しくしている。テント、庭ごはんなど。家の中でかくれんぼやおいかけっこをしている。
【4】1~2才では、親子で一緒に活動することが幼児の活動量増につながる
保護者を歩数の多いグループと少ないグループに分けてその子どもの歩数を分析したところ、1~2才では、保護者の歩数が多いグループのほうが幼児の歩数が多いことが分かりました(図4)。この年齢の幼児については、3~5才に比べて一人で出来ることが少なく、活動の場面でより親との関わり合いが多いため、親子で一緒に活動することが、幼児の活動量を増やすことに効果的であると考えられます。
【5】ストレスを感じたり生活リズムが乱れたりした幼児も少なくない
保護者への自由回答形式のアンケートから、保護者が各幼児に対して緊急事態宣言前と比較して困っていたことを探りました。それによると、活動量が減ったこと以外に、ストレスを感じたり、生活リズムが崩れたりした幼児が少なくなかったことが分かりました(表1)。また、このアンケートからは、保護者自身もストレスを感じているという回答も見られました。
幼児に対して困っていたことに関する具体的な回答には次のようなものがありました。
- 公園や週末に出かけられず、ストレスを感じて泣いてしまう事がある。
- ストレス性じんましんになった。以前より甘えや癇癪が増えた。反抗も増えた。
- 友達とあまり遊べず、子どももストレスが溜まっている様子。
- 運動が足りてないのか、やや体重が増えた。以前よりもうちの中で走ったり暴れたり叫んだり、早く寝てくれなくて困る。
- 寝つきが悪くなった。
- 夜寝るのが少し遅くなることがある。
順天堂大学 内藤久士教授、鈴木宏哉先任准教授の研究グループからの提言
~新型コロナ感染症対策が必要な時代の子どもの活動について~
今回の調査によって、緊急事態宣言期間中に幼児の歩数が少なかったこと、外出自粛による活動制限が幼児に対する影響だけでなく、保護者(母親)の悩みやストレスを増加させていることが分かりました。その一方で、外出自粛中であっても、年齢にかかわらず保護者が子どもと積極的に関わったり、家庭で様々な工夫を行ったりすることが幼児の歩数を増加させている様子もうかがえました。
緊急事態宣言の解除後も不要不急の外出自粛が呼びかけられる中、日常の行動が制限される日々が今もなお続いています。運動不足による健康問題は、成人・高齢者のみならず、特に心身の発育・発達が著しい幼児においても危惧されます。しかし、今回の調査結果から、いずれの年齢においても、感染に気をつけながら体を動かす工夫をしたり、外出をするだけでも活動量(歩数)の低下は抑制できることが示されました。また、これまでの多くの研究から、活動量は平日の方が休日に比べて多い傾向にあることが示されています。多くの幼稚園・保育園が再開している現在、これらに通園している子どもたちの活動量は元の状態に戻りつつあると考えられるため、保護者が子どもの活動量確保のために過剰な心配をする必要はないと思います。また、今回の調査結果から、幼稚園・保育園に通園していない1~2才に関しても、感染に気をつけながら親子で散歩や体を動かす遊びなどを一緒にすることで、活動量を増やせることが期待できます。
その反面、人がたくさん集まる場所ではソーシャルディスタンスを保つことが推奨され、この状況は今後もしばらく続くことが予想されますが、このことは幼少期に必要な多様な経験の機会を奪ってしまう可能性があります。同じ年頃の子ども同士の関わり合いや集団遊びの中で子どもたちは様々なことを学びながら成長していきますが、運動という観点では、量に加えて質も大切であり、ソーシャルディスタンスという制約によって動きの多様性を培う機会が失われてしまうことが危惧されます。基本的な運動動作として、①体を移動させるような動作、②バランスをとるような動作、③物を持ったり、道具を使って操作したりするような動作の3つの要素を意識することで動きの多様性は確保されます。
- 遊びのアイディア
「だるまさんが転んだ」は少しルールを工夫すれば、ソーシャルディスタンスを確保した集団遊びになります。また、「王様だるまさんが転んだ」といってオニの指示(だるまさんがジャンプした、かかしになったなど)の通り動く遊びにすると動きの多様性が増します。このような様々な運動遊びの例が日本スポーツ協会アクティブ・チャイルド・プログラムのホームページ※3で具体的に紹介されています。
この他に家庭内でもできることがあります。ご家族を木に見立てた木登り遊び、体でトンネルを作って子どもがくぐる遊び、そしてぬいぐるみを部屋のどこかに隠して子どもが探す宝探し遊びなど、親子でできる運動遊びは、子どもだけでなく、親のストレス解消にも役立つかもしれません。なお、スポーツ庁の「子供の運動あそび応援サイト」※4には、家庭でも楽しく行えるスポーツや運動を紹介している情報がまとめられています。是非、ご活用ください。
新しい生活様式の中では、自宅にいながら親同士がインターネットを介して子ども同士をつなげて遊ぶということも当たり前になるかもしれません。現状に悲観することなく、楽しく子どもの発育・発達を促す日常のしかけをみんなで考え、そしてシェアしましょう。Stay Active! Stay Positive!
※3 https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/acp/index.html
※4 https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop03/list/detail/jsa_00012.html
Selected by COCOLOLO ライフ magazine 編集部