スタンフォード大学で人気の自己能力を高めるためのマインドフルネスとは?(後編)
マインドフルであるとはどういうことか?
マインドフルとはどういうことかを説明するのに、重松さんは犬の散歩の例を挙げる。
人間は犬と一緒に散歩をしている間も、過去のことを後悔したり、未来のことを心配したりして頭がいっぱいで、心ここにあらずの状態になる。これはマインドフルではなく、マインドがフル(いっぱい)な状態だと重松さんは言う。
一方で犬はというと、そんな飼い主の心配事などお構いなしに、目の前のことに集中しているように見える。このように「今この瞬間」に自分の注意を向けて、現実をあるがままに受け入れることが、目指すマインドフルな状態ということになる。
マインドフルネスについてさらによく理解するために、重松さんは「マインドフルネスのABC」として、次の3つの要素を紹介する。
Awareness(気付き)
自分が考えていること、感じていることをもっと意識できるようになること。自分の心や体の中で起きていること、自分の思い、感情、感覚を認識すること
Being(存在すること)
価値判断や自己批判、そして何かを絶えずしていなければならないという考えを一時的にやめて、ただ自分の経験とともにあること
Clarity(明瞭さ)
なんであれ自分の生活で起こりつつあることに注意を向けて、はっきりと眺めること。自分が望むようにではなく、あるがままに物事を見ること
マインドフルになることにより、自己認識や自己理解が高まり、他者の感情や思考に気付いたり、他者への思いやりが深まったりする効果が期待できると重松さんは言う。そして、そうなるための手段としてマインドフルネス瞑想がある。
学ぶとは体験することである
ワークショップではこうした効果を体感するために、まず参加者同士が挨拶をし合うワークを行い、続いてマインドフルネス瞑想、そして再び挨拶のワークをして、瞑想の前後で感じ方がどう変わったかを話し合った。
重松さんは、アルベルト・アインシュタインの”Learning is experience; everything else is just information”という言葉を引き、「今や情報はインターネットで簡単に得られる時代。情報自体に価値はない」と体験することの重要性を訴える。実際、スタンフォードでの講義は専用の講堂での瞑想に始まり、こうした体験に多くの時間を割くのだそうだ。
ワークショップ後半ではさらに、自分自身についての考えを深めるための2つの問いを用いたワークも行った。
投げかけられた問いは、「あなたは誰?」、そして「あなたはなぜここにいるのか?」というものだ。前者の問いを考えるにあたっては、映画『Anger Management(邦題:N.Y.式ハッピー・セラピー)』の中の次のシーンが紹介された。⇒こちら
ここで尋ねられているのは、自分が所属する会社のことでも、そこでのポジションのことでもない。そういったものを取り払った、本当の自分とは何かを突き詰めて考えることを迫られている。
ワークショップでは、そうやって考えた答えを各自が紙に書き、それを発表し合うということを行った。先ほど紹介した「ABC」に照らせば、価値判断や評価をすることなく、ただ淡々と発表していたことにも、重要な意味があるだろう。
自分が変われば世界は変わる
以上のようなプロセスを通じて、自分の弱い部分も含めてあるがままに見、それを受け入れることができれば、何か特別なことをせずとも自然と自分を変えることができると重松さんは言う。
そして、マハトマ・ガンジーが”If we could change ourselves, the world would also change.”と語ったように、自分が変わりさえすれば、社会や世界の見え方も変わっていくという。
重松さんの講義では普段、マインドフルであることに加えて、VulnerabilityとAppreciationという2つの要素についても大切にしている。Vulnerabilityは日本語でいうところの「弱さ」あるいは「Beginer’s Mind=初心者の心」、Appreciationは「感謝」あるいは「一期一会」を意味するそうだ。
これはもちろん、講義の中でだけ重要ということではないだろう。この3つを持って生きることがすなわち人生をより良くすることにつながるというのが、重松さんの主張だ。
最後に重松さんは「今日という日はどこにでもある日ではなく、今この瞬間にしかない。毎日それが最初の日であり最後の日だと思って過ごすことができたら、より良く生きられるのではないか」とメッセージを贈り、ワークショップを締めくくった。
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