マインドフルネスと呼吸~生きることは「息る」こと~(前編)
マインドフルネスコラム、今回は「マインドフルネスと呼吸」というお題でお話しを始めたいと思います。マインドフルネスと呼吸は非常に密接に関係しています。呼吸のこと抜きには、マインドフルネスの話はできないほどです。
今回は呼吸の意味を考え、そしてマインドフルネスとの関係性を紐解いていきたいと思います。
呼吸の経典
仏教の中に、「アーナパーナサティ・スートラ」という、呼吸に関する経典があります。「アーナパーナ」は入息・出息、「サティ」はきづきという意味になります。最後の「スートラ」は経典という意味です。わかりやすく言葉を換えれば、「呼吸に対する気づきの教え」という事です。
この中では、ブッダがアーナンダというお弟子さんに教えた、という設定で教えが残っています。ブッダが亡くなった後、アーナンダさんが伝え残したものであるとされているんですね。
この教えの中には、呼吸に対する観察法が記されています。しかも、16もあるんです。
1.物質(身体)
①吸う、吐く。②長い・短い。③身体を体験する。④身体を静める。
2.感覚
⑤喜びを体験する。⑥幸福を体験する。⑦心に形成された思いを体験する。⑧心に形成された思いを静める。
3.心に形成された思い
⑨心を体験する。⑩心に喜びを起こす。⑪心を集中させる。⑫心を開放する。
4.認知
⑬無常を観る。⑭無欲を観る。⑮涅槃を観る。⑯放棄を観る。
(ティク・ナット・ハン師著『ブッダの〈呼吸〉の瞑想』p83-84引用)
分類は以上の16種類になっていますが、すべて、この通りに行っていくのは、普通の生活者には難しく難解ですね。逆に言えば、呼吸に対して、こんなに多くのことを観察する、感じ取ることができるものなんですね。
難しいですが、この経典こそ、マインドフルネスを深めていくためにはなくてはならない経典ですので、興味のある方はティク・ナット・ハン師『ブッダの〈呼吸〉の瞑想』の本やラリーローゼンバーグ著の『呼吸による癒し』等の書籍を参考になさると良いでしょう。
呼吸瞑想は、呼吸をあるがままに観察することから始めていきます。
呼吸を利用して落ち着いた状態をつくる
では、呼吸を生理的に確認しておきたいと思います。呼吸は、私たち人間の持っている機能の中で、不思議な位置にあります。それは、唯一、人間の機能の中で、随意と不随意の間にあるものだからです。
●随意=骨格筋のように、腕を上げたり、足を動かして歩いたり、自分の意識で動かし操作できる身体の作用の事です。
●不随意=心臓の拍動など、止めようと思っても、止められないものです。
※走れば心臓の拍動は早くなりますね。そういった、自分の身体が意志とは無関係に、ちょうど良いように調整してくれる作用の事を不随意(自律神経系)と言います。
そして、呼吸は意識的コントロールすることもできるし、意識的にコントロールしないという事も可能な機能を持つ、唯一のものです。昔の聖人たちはそういう事をよく知っていて、また、それが身心相関していることもよく理解していたんですね。
私達は、緊張すれば呼吸はどうなるでしょうか?浅くなりますね。浅くなれば気持ちはそわそわし、落ち着きはなくなります。
昔の聖人たちは、呼吸を利用し、うまく落ち着かせる事により、本来操作できないはずの不随意の部分をコントロールして、落ち着いた状態を手にすることを実践しだしました。
その手法として、ヨーガではプラーナヤーマという呼吸法で、呼吸のコントロールにアクティブに介入して、呼吸のトレーニングをしていきます。仏教では呼吸の観察により、自然と深まっていく呼吸を感じていくという手法を取っていきます。
いずれの方法にしても、随意と不随意のコントロールが可能な呼吸というものにアプローチしていく手法を取ります。
続きは後編で。
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