走ることにピラティスはどう役立つか?元日本代表ランナー市河麻由美さんに聞く(後編)

心のゆとりが走りのパフォーマンスを上げる

今ではマラソン界のトレーニング事情も刷新されていて、青山学院大をはじめとして体幹トレーニングを重視しているチームは多い。大会会場へ行けば、ストレッチポールとマットを持ち込んでいる選手の姿もたくさん見かけるようになった。

ピラティスがこれだけランナーから受け入れられているのには、「体幹トレーニング(あるいは身体の正しい使い方を学ぶ方法)としての側面に加えて、ランナーの精神面に与える好影響も大きいのではないか」と市河さんは見ている。

「自分の現役時代は周りは全て敵だと思って常に戦っていたので、自律神経がいつも過敏になっていました。また、マイナス思考になって、ゴール前で失速することを恐れて積極的なレース運びができない課題もありました。でも、今振り返れば、調子が良 い時ほど余計なことは何も考えておらず、レース当日が早く来てほしいという心境になっていた。世界選手権に出た時も不思議とプレッシャーは感じなかったし、精神的なゆとりがパフォーマンスに与える影響は小さくないと思います」

だが、持って生まれた性格を自分の意識だけで変えるのには限界がある。そこで有効なのがピラティスだ。身体に意識を向ける事で、客観的に自分を見ることができ、精神のコントロール力を得られると市河さんは言う。

27歳の若さで引退することを決意した直前は、走ることが苦しくて仕方なかったという 市河さん。「全てがピラティスのおかげというわけではない」とは言うものの、それから 10 年ほどを経た今では、走ることを再び自然なこととして受け入れられるようになった。現役当時の市河さんがもしもピラティスと出会っていたら、あるいは選手としての人生がもう少しだけ伸びていたかもしれない。

ブームで終わらず、一生健康に走ることを楽しめるように

「日本人の美意識がここへきて変わってきている」と市河さんは言う。

「昔は女性が憧れる体型といえばとにかく細い身体だったけれど、筋肉を伴ったたくましい痩せ方が流行ってきています。中高年の健康意識も高まってきていて、お腹が出ているのは昔でいえば富の象徴だったけれど、今では自己管理ができていない、つまり仕事ができない人と捉えられるようになった。いい傾向だと思います」

そして、そうした健康が最も手軽な形で手に入れられるのが、ランニングというスポーツだと市河さんは続ける。市河さんの元を訪れる人の多くはやはり、タイムを縮めることを目的としている。だが、指導する市河さんが望むのは、それ以上に怪我を減らして、とにかく走るのを楽しんでもらうこと。タイムはその結果として縮まるのが望ましいと考えている。

「私自身も現役時代に怪我で走れない経験をして、お金じゃ買えない健康の大切さを知りました。そして、身体が元気でなければ心も元気ではいられない。ランニングとピラティスを通じて、これからも一人でも多くの人の健康寿命が延びることに貢献してい きたいですね」

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