ヨガワークスのティーチャートレーニング講師に学ぶ、「マインドフル・ムーブメント」としてのヨガ(後編)


アーサナは「集中する技術」を学ぶための手段でしかない

―日本でも「マインドフルネス」という言葉をよく耳にするようになりました。2011年以降、毎年日本を訪れているジェニーさんから見て、日本社会の変化を感じるところはありますか?

今回の来日で気づいた一番大きな変化は、あまりに多くの人がスマートフォンを見ながら道を歩いていることです。全然マインドフルではないですね(笑)。

―アメリカのヨガスタジオのWebサイトなどを見ても、「マインドフル・ムーブメント」という言葉を最近になってよく見かける気がしますが。

「マインドフル」とは「いまここ」に集中している状態のことです。その言葉自体は、身体を使うコミュニティでは何十年も前からあったように思います。例えばダンサーは、自分が次にやる動きに全身全霊を込めていますよね。そうでないと次のステップを忘れてしまいますから。

ヨガの生徒の多くが身体的な効果を狙ってスタジオへ来ているというのは事実だと思います。けれどもアーサナの真の学びは、身体をどう形に収めるかではありません。マインドフルに動くことを通じて、意識を払う、注意深くなるための技術を学んでいるのです。

バスケットボールのドリブルが上達するためには、ボールを使わずに手だけでドリブルの真似をするよりも、実際にドリブルをしてみる方が近道ですよね。同じように、多くの生徒にとって、マインドフルになる技術を学ぶには、座って瞑想するよりも身体を動かす方が学びやすいのです。

―身体を動かすのは、技術を学ぶための手段でしかないということですね?

その通りです。そしてここで重要なのは、学んだことを人生の他の側面に応用できるようになることです。

ヨガのクラスを受ける、企業の研修で専門家のレクチャーを受けることは、マインドフルネスという言葉を知るきっかけとしてはいいでしょう。けれども、それを実際の生活の中で実践しないことには意味はありません。

マインドフルになるべき機会は日常生活の中に山ほどあります。例えばスターバックスに行ってバリスタにコーヒーを淹れてもらった時。あなたは5分後に、誰にそのコーヒーを淹れてもらったのか思い出すことができるでしょうか?

だからまずは、道を歩く時はスマートフォンをバッグにしまいましょう。……なんて言ってしまったからには私も東京では二度と歩きスマホができませんね(笑)。

―逆に言うなら、「いまここ」に集中しづらい社会環境があるからこそ、マインドフルネスの必要性が叫ばれているということでしょうか?

そうは思いません。古来のヨガの聖典の中にも、「どうやったら心の実相を見つめることができるのか」「どうやったら心の作用を鎮めることができるのか」といった疑問が挙げられています。その頃にはもちろん、携帯電話も満員電車もありませんでしたよね?

マインドはもともと、あちこちに散ってしまう性質を持っています。だから人間の心には文化や国や時代の違いに関係なく、意識を集中する訓練が必要なのです。

 

マインドフルネスが個々の生活にもたらす小さな平穏

―日常生活において「いまここ」に集中することの意義はどこにあるのでしょうか?

ヨガなどを通じてマインドフルになる技術を学ぶと、周りの環境に意識が払えるようになります。そのことは例えば、地下鉄に乗っていて人とぶつかったらどうすればいいのかということを教えてくれます。

先週、私は通勤時間帯の山手線に乗る機会がありました。近くに誰かの荷物が置いてあったおかげで、満員電車の中で片足立ちになる羽目になりました。五反田駅に差し掛かるところで大きなカーブがあり、隣に立っていた男性が私に寄りかかってきた。かろうじてつり革に掴まっていた私の身体はよじれて、右肩に大きな痛みを感じることになりました。

一瞬、寄りかかってきた男性に対してイラつく気持ちが芽生えましたが、そこで私はすぐにこう思い直すことができました。「彼もつり革に掴まりたくても掴まれない状態にあった。わざとやったわけじゃない」と。その結果、相手の立場も考えずに怒鳴り散らす失礼なアメリカ人にならずに済んだのです。

―つまり、思いやりや共感力が持てるということ?

おっしゃる通りです。

―ピラティスの創始者であるジョセフ・ピラティスさんは、自分のメソッドが究極的に広まれば、世界平和にさえつながると考えていたそうです。全ての人がマインドフルになれば、そういう世の中が訪れると思いますか?

私はそこまで楽観的ではありませんよ(笑)。でももっと小さなレベルで、個々の生活に平穏がもたらされるというのは分かります。

私がいつも平穏な人間なのかといえば、決してそうではありません。現実に今朝の200時間コースのクラスでも、話を聞かない生徒にイラっとさせられました。ただ、私はそこからかなり早く元の状態に戻ることができる。

ヨガのプラクティスを重ねることで、忍耐とか思いやりを持つことが簡単になったと感じます。今朝の出来事にしても、「生徒たちだってもう4週間目に差し掛かっていて疲れているし、試験が近くて心配なんだから」とすぐに思い直せたようにね。

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参考サイト紹介

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