この1年で今の仕事に直結する新しい学びがあった人は約6割。チャットツールや遠隔会議の効果

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ(本社:東京都品川区、代表取締役社長:藤島 敬太郎)組織行動研究所は、従業員規模300名以上の企業の20~50代の正社員457名に「職場での個人の学びに関する実態調査」を実施し、「仕事を通じて学びを多く得ている人の特徴」「学びのテクノロジーの活用の実態」「学びにつながる職場風土の特徴、学びを支援する制度・仕組み」など、調査結果から見える実態について公表しました。詳細は当社Webサイトの調査レポート(https://www.recruit-ms.co.jp/issue/inquiry_report/0000000795/)からもご参照いただけます。
1.結果のポイント
●「過去1年で現在の仕事に直結する新しい学びがあった」と感じているのは約6割。
なかでも、仕事においてハイパフォーマンス、ハイコミットメントできていると感じている高適応層は、約8割の人が1年以内に現在の仕事に直結する新しい学びを得ている。そうではない低適応層では約4割だった。●過去1年の新しい学びの有無には、年代、役職、学歴による差はみられなかった。一方、環境変化の大きさや職務の重要度・自律度、キャリア見通しや専門職志向の高さが学びの有無に関係していた。●労働時間の短縮は必ずしも学びに結びつかない。●「自分の得意な学び方」が確立している人は約5割。
得意な学び方がある人は、そうでない人より多く学んでおり、その方法は「経験から学ぶ」「人と学ぶ」「仮説・想をもつ」「言語化・アウトプットする」という人が多い。●ハイパフォーマンス・ハイコミットメント層は、何事も成長機会と捉え、より良い経験を積めるように仕事をアレンジしたり、経験を学びに変えるためのアウトプットをしたりしている。●学びのテクノロジー活用のトレンドとしては、「チャットツールによるリアルタイム情報共有」、「遠隔会議システムによる対話機会の増加」。社内の人に何か聞きたいことがあったときにすぐに確認したり、全国の同じ職種のメンバーとナレッジ共有したりしている。

●今の会社が成長できる環境だと思っているのは約4割。学びにつながる職場風土の特徴は、「従業員同士がお互いの仕事の成果と成長の両面に関心をもち、信頼し合い、共に成長していこうという関係性を築けている」こと。

●従業員の学びを支援する制度として、導入割合・役立ち度共に高いのは、「1on1ミーティング」「上司・同僚からのフィードバックサーベイ」「勤務時間・場所の選択制度」など、全員一律ではなく、一人ひとりの状況に合った学びをサポートするもの。一方、導入割合が高くないが役立ち度が高いのは「自己学習のための金銭支援」「社内外の人との交流の機会」「社外副業」「本業以外の仕事機会」など。

2.組織行動研究所のコメント
■うまく学べている人の背景を知るとやるべきことが見えてくる
リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所 研究員 佐藤裕子

企業と働く個人を取り巻く環境が、スピーディーに大きく変化する中、大人が学び続けること、学び直すことへの注目が高まっています。
お手本や正解がない時代、専門性や個別性が高まる時代においては、学び方も従来とは異なってくると思われます。今回の調査では、うまく学べている人の背景には、キャリア意識の高さなどの個人要因だけでなく、新しい学びを必要とする裁量度の高い職務、成果と成長を求め関わりあい学び合う職場、一人ひとりにあった学びを支援する制度や仕組みがあることが見えてきました。従業員に多様な学びを提供するために、人事ができること、すべきことを考えるヒントになれば幸いです。

■正解のない時代の学びはとりあえず動いてみることから
リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所 所長 古野庸一

衣食住が満たされるまでは、経済的な成長が正解と言えましたが、それらが満たされていくと、次に満たしていくものは人によって違ってきます。100人いれば100通りの正解があります。そういう意味で、現代は正解のない時代です。
正解がない時代の学びで気をつけなければならないことは、「正解探しをしない」ということです。どこかに正解があるという思考に慣れているので、つい上司や講師が考えている正解を探りにいきますが、その思考の癖を自覚することが気をつけなければいけないことです。さらに大事なことは、「とりあえず動いてみる」ということです。正解がないのであれば、とりあえず発言してみる・市場に聞いてみるという動きが大切です。発言してみると、違う意見に出会います。それは自分が持っていなかった視点であり、そのことで考えが深まり、新たな意見が創造されていきます。そのような時代であることを認識することが、これからの職場の学びを考える起点になるでしょう。

3. 調査結果
●「過去1年で新しい学びがあった」と感じているのは約6割、
ハイパフォーマンス・ハイコミットメント層は約8割の人が新しく学びを得ている

・過去1年において、「現在携わっている仕事に直結する新しい学び(以下、現在の学び)」と「中長期的に自分のキャリア形成に役立つ新しい学び(以下、中長期の学び)」があったかどうかついての調査では、「現在の学び」は全体の59.7%、「中長期の学び」は50.1%が「あった」「どちらかといえばあった」と回答しました(図表2)。

・学びの有無と仕事におけるパフォーマンスやコミットメントの関係について、適応感に関する7項目(「期待どおりの成果を上げている」「今の仕事にやりがいを感じる」など、「1まったくあてはまらない~6とてもあてはまる」で回答)を尺度化し、ハイパフォーマンス・ハイコミットメントしている高適応群(上位49.9%)と、低適応群(下位50.1%)の2群に分けて分析したところ、高適応群は学びが「あった」「どちらかといえばあった」の割合が「現在の学び」で78.9%、「中長期の学び」で67.6%と、低適応群に比べて大幅に高いことが分かりました。ここから、学びは仕事や組織への適応感を高めると同時に、適応感が次の学びを促進すると考えられます。

●「環境変化」「職務特性」「キャリアへの考え方」が学びの有無に影響
・どのような要因があるとき学びが得られるのかについて、今回の調査では、「環境変化(大きな環境変化にさらされている、市場の変化が速いなど4項目)」「職務の重要度・自律度(自分で判断し主体的に進めることが求められるなど7項目)」「キャリア見通し(自分がどうなりたいのかはっきりしているなど4項目)」「専門職志向(今の職務・専門分野でキャリアを追求したいなど6項目)」を検証したところ、いずれも高・低群で学びの有無に有意な差が見られました。

・一方、年代別(20代~50代)の「学びの有無」については統計的な差は見られず、また、役職・学歴による差も見られませんでした。

⇒新しい学びがあるかどうかは、年齢などの個人属性よりも、学びが必要とされる環境や職務があること、キャリア見通しや専門職志向が育まれていることに影響を受けることが示唆されます。

●労働時間の短縮は必ずしも学びにつながらない
・労働時間と学びの関係について、「現在の学び」「中長期の学び」共に、月間労働時間群と学びの有無に統計的に有意な差は見られませんでしたが、「現在の学び」「中長期の学び」共に、「あった」「どちらかといえばあった」が最も多いのは、月間240時間以上の群でした(図表3)。

・過去1年の「労働時間の変化(増減)」と「学びの量の変化(増減)」の関係を見たところ、「現在の学び」「中長期の学び」共に、労働時間が増えた群の方が、学びの量が増えた人の割合が統計的有意で多いという結果となりました。

⇒労働時間の増減には、異なるさまざまな要因が考えられるため解釈は難しいものの、今回の結果からは少なくとも、労働時間が短いことと学びの多さ、労働時間が減少することと学びの増加には関係が見られませんでした。学びを業務時間外のインプット活動と見るか、今回のように仕事を通した学びも含めて考えるかによっても結果は異なると考察できます。

●「自分の得意な学び方がある」人は約5割、
その方法は「経験から学ぶ」「人と学ぶ」「仮説・想をもつ」「言語化・アウトプットする」という人が多い

・ 自分にとって得意な学び方について、「ある」と回答した人は全体の11.2%で、「なんとなくある(39.8%)」を含めると約5割であり、「ない(49.0%)」と約半数ずつの結果となりました(図表4)。

・また、「得意な学び方がある」群は、「現在の学び」「中長期の学び」共に、学びが「あった」「どちらかと
いえばあった」と回答した人が全体の8割を超えており、「なんとなくある」「特にない」群より大幅に高い割合となりました(図表5)。ここから、得意な学び方がある人はそうでない人に比べ、より多く学んでいることが分かります。

・得意な学び方がある人はどのような学び方が自分にとって有効だと考えているのか、具体的内容の自由記述回答の中で比較的多く見られたのは、「経験から学ぶ」「人と学ぶ」「仮説・想をもつ」「言語化・アウトプットする」に関するものでした(図表6)。これらはいずれも、正解のない時代に仕事を通じてより多くの学びを得るための有効な方法だと考えられます。

●仕事を通じて学びを得ている人の特徴は、環境や職務が適していなくても
「より良い経験を積めるように仕事をアレンジ」「経験を学びに変えるためのアウトプット」

・仕事を通じた学びにつながる行動について、選択肢への回答におけるすべての項目で、高適応群が低適応群に比べて有意に高い結果となりました。特に高適応群が高かったのは、差が大きい順に「何事も成長機会と捉えて、目の前の仕事を大切にしている(主体的キャリア形成)」「人に話をすることで、ヒントやアイディアを得ようとすることが多い(アウトプット型の学び)」「仮説検証を意識的に行いながら仕事を進める(リフレクション)」「新しい経験を積める環境、成長できる環境を求めて行動している(ジョブクラフティング)」「自発的にスキル・能力開発に取り組んでいる(主体的キャリア形成)」でした。

⇒与えられた環境や職務はいつも学びに適しているとは限らないものの、そんな中でも学びを見つけようとしたり、より良い経験を積めるように仕事をアレンジしたり、かつ経験を学びに変えるためのアウトプットやリフレクションをしているのが特徴的だといえます(図表7)。

●仕事における“学びの情報収集方法のトレンド”は
「チャットツールによるリアルタイム情報共有」「遠隔会議システムによる対話機会の増加」
社内の人に何か聞きたいことがあったときにすぐに確認、全国の同じ職種メンバーとナレッジ共有

・仕事に関する学びにおいて、新しい領域についての情報収集の方法を聞いたところ、「ネットで調べる」が最も多く、「ややあてはまる」まで含めると8割以上となりました。次いで「人に聞いてみる」が約7割、「実際に経験してみる」が約6割で、「本で調べる」は半数に満たない結果となりました(図表8)。
また、この傾向は、年代によっても変わりませんでした。

・最近よく使うようになった、もしくは効果的だと思っている学びのテクノロジーやその活用法については、「チャットツールによるリアルタイム情報共有」「遠隔会議システムによる対話機会の増加」を挙げる人が多く、社内の人に何か聞きたいことがあったときなどにすぐに確認したり、全国の同じ職種メンバーとナレッジ共有をしたりしているという回答が得られました。(図表9)
また、「学習教材のIT化」「情報記録・保管の効率化」という回答も見られましたが、記述数は必ずしも多くなく、こうした変化が当たり前になっている職場がある一方で、そうでない職場もまだまだ多く、学びの内容やスピードに差が生じている可能性も感じられました。

●「今の会社や職場は成長できる環境だ」と思っているのは約4割、
成長できる職場環境の特徴は「取り組みがいのある仕事がある」「同僚からの刺激がある」

・現在の会社や職場が成長できる環境だと思うかという質問に対して「とてもそう思う」「そう思う」と答えたのは全体の41.4%と、半数を割り込みました。「現在の学び」「中長期の学び」の高群(学びが「あった」「どちらかといえばあった」を選択)は、低群(学びが「なかった」「どちらかといえばなかった」を選択)と比べ選択率が高かったものの、それぞれ58.6%、61.6%であり、必ずしも高いとはいえない結果となりました(図表10)。

・「成長できると思う」理由として多かったのは「取り組みがいのある仕事」「同僚からの刺激がある」「教育制度がある」「成果主義」などでした。一方、「成長できないと思う」理由として多く見られたのは「仕事に変化がない」「評価されない」「学習風土がない」といったものでした(図表11)。

●学びにつながる職場風土の特徴は「従業員同士がお互いの仕事の成果と成長の両面に関心をもち、
信頼し合い、共に成長していこうという関係性を築けている」こと

・学びにつながると思われる職場風土について、成長できる環境だと思う群(高成長環境群)と成長できる環境だと思わない群(低成長環境群)を比べると、回答の差が大きい順に「従業員が仕事を通して成長できることを重視している(成長支援)」「お互いの成長への関心が高い(成長支援)」「お互いの成果への関心が高い(成果・貢献重視)」「互いに切磋琢磨している(成果・貢献重視)」「お互いの仕事の成果やプロセスに率直にフィードバックし合える(成果・貢献重視)」という結果となりました。(図表12)
従業員同士が、お互いの仕事の成果と成長の両面に関心をもち、信頼し合い、共に成長していこうという関係性が学びを促進するといえそうです。

●従業員の学びを支援するのは「全員一律ではなく一人ひとりの状況に合った学びをサポートする制度」、
役立ち度が高いのは「自己学習のための金銭支援」の他、社内外の人との交流の機会という声も多い

・従業員の学びを支援する制度・仕組みの導入割合、役に立っていると回答した割合で、導入割合・役立ち度共に高いものとしては「上司との1on1ミーティング」「上司・同僚からのフィードバックサーベイ」「勤務時間・場所の制度」といったように、いずれも全員一律ではなく、一人ひとりの状況に合った学びをサポートする制度が挙げられました。

・導入割合がそれほど高くはないものの役立ち度が高いものとしては、「自己学習のための金銭支援」「社内の多様な人との勉強・交流会」「社内外の人と情報交換する場所」「社外副業」「本業以外の仕事機会」などが挙げられました。目の前の業務を少し離れた越境的な学びをサポートする制度は、個人の役立ち度は高いが導入している会社はまだ少ないようでした。(図表13)

4. 調査概要

 

 


掲載元:PR TIMES

Selected by COCOLOLO ライフ magazine 編集部