ロボットが人を思いやり勇気づける。空想の世界が現実に【ロボット×ストレスオフな未来】芝浦工業大学 情報工学科 菅谷みどりさん 後篇

心理学で使われる定番モデル「ラッセルの円環モデル」と自律神経×脳波を組み合わせ、目に見えない「感情」を計測・数値化しようという研究を行っている芝浦工業大学情報工学科の菅谷みどり先生。前篇では概要についてうかがいましたが、今回は、その手法を用いて行った実験のお話。エンタテインメントショーの舞台を観て拍手喝采!の、観客たちの内側にある感情に迫ります。


「空気を読む」のは人間にしかできない?

私たちの研究室では、心理学のモデルを応用し、自律神経×脳波で「感情」を明らかにする研究を行っています。微笑みに隠された「悲しみ」や怒りの裏側にある「とまどい」、たとえ無表情だったとしても、その内側で感じている「うれしい」や「満足」を知ることができるこの方法を用いれば、メンタルヘルスをはじめ現代の多くの社会問題の一助になると考えていますが、私たちの研究室で行っているのは、人手不足が深刻な福祉分野をサポートするロボットへの応用。 “思いやり”や“気づかい”のできるロボットの研究開発を2015年から本格化しています。
今回はその中から、リハビリテーションを支援する寄り添い型ロボット設計のための実験をご紹介します[1] [2]。

 

リハビリ支援ロボットによる「もう少しですよ」の声かけが励みに

実験に使用したロボットは、20~40代の男女(リハビリ実施者)の訓練に帯同し、いったん先に進んだ後に気にかけるように戻ってくる「フォローアップ」とリハビリ実施者の感情に応じた「声かけ」をするというものです。
実験中はリハビリ実施者の感情をセンサで測定し、“快”の場合は「今日もがんばりましょう」「もう少しですよ」、“不快”の場合は「少し休みますか」「焦らなくても大丈夫ですよ」などと、感情に合わせてロボットが声かけ。ロボットの動作は、「移動のみ」~「移動+声かけ+フォローアップ」の4パターンをランダムで実施しました。

 

▼リハビリ実施者の感情が快(楽しい、リラックス)時の声かけ[1] [2]
開始時・・・「今日もがんばりましょう」
歩行中・・・「うれしそうですね」「私もうれしいです」「もう少しですよ」
終了時・・・「また明日よろしくお願いします」
▼リハビリ実施者の感情が不快(緊張、疲れ)時の声かけ[1] [2]
開始時・・・「よろしくお願いします」
歩行中・・・「少し休みますか」「焦らなくて大丈夫ですよ」
終了時・・・「この調子で少しずつやっていきましょう」

<ロボットの動作の組み合わせ>

歩行終了後、I~Ⅳに対して、主観評価(リハビリ実施者へのアンケート調査)と生体情報による評価を行ったところ「Ⅲ.移動+フォローアップ」と「Ⅳ.移動+声かけ+フォローアップ」との間で有意な差が。相手を心配しても戻ってくるといったフォローアップ動作を行い、さらに声かけをした場合に人の気持ちが快になったことがわかりました。人同士の関係でも一緒ですね。

<「声かけ」のあり・なし比較>

 

ロボットと共に生きる未来がすぐそこまで

今、日本では、多くの働く現場で働き手不足が社会的な問題となっています。超高齢化社会の中心となる医療や介護の現場ではとりわけ切実。そんな中、大きな期待が寄せられているのがロボットの存在です。多くのメーカーや研究機関で支援ロボットの研究開発が進み、癒やしをもたらすロボットなどはすでに多く活躍していますが、「人間の気持ちをおもんばかる」「人間的な温かみ」の充足といった面では、まだ十分な研究はなされていないと言えるでしょう。しかし、介護や看護の現場で何よりも大切であり、求められているのはこういった思いやりのあるコミュニケーションではないでしょうか。
私たちの取り組みはまだ始まったばかりですが、日々新しい発見の連続です。近い将来、社会に役立つテクノロジーの創出を目指して、これからも研究開発を進めていきます。

 


菅谷みどり(すがやみどり)MIDORI SUGAYA

 

芝浦工業大学 情報工学科 教授

【参考文献】
[1] Teppi Ito, Yoshito Tobe, Midori Sugaya, Supportive Voice-Casting Robots using Bio-Estimated Emotion for Rehabilitation,
The 15th International Conference on Intelligent Environments 2019. Rabat, Morocco, June 24-27, 2019.
[2] 伊藤哲平,菅谷みどり, Mihabilly:感情を考慮したリハビリテーション時の声かけロボット, 情報処理学会, インタラクション2018, 2018.


編集:COCOLOLO ライフ magazine 編集部

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