毎日ストレスでマイナスになる生体防御機能を、ゼロレベルに戻すために、自然のチカラを。 薬剤師 臨床検査技師 林真一郎さん 後篇

自然豊かな日本は、自然を用いた療法との相性もいいハズ

編集部:前回は、西洋医学とハーブを含めた代替療法が融合した統合医療についてお話が出ましたが、動きが進んでいる国はありますか?

林:ドイツは統合医療が進んでいますね。

100年くらい前のことだと思いますが、ドイツ国内で、医療だけでなく公害なども含めて、「このままでいくとやばいんじゃないの?」という危機意識が強くなり、国策としての自然回帰が強まったのです。さまざまな法律が変わったり、社会のしくみからの転換-例えばハーブが保険適用であったり、教育に組み込まれたり-が行われました。ドイツに転勤になった知人の話によると、風邪ひいた時も、医者さんが薬を出さないで「菩提樹(リンデン)のハーブティを飲みなさい」なんて言うことはままあるようです。

 

編集部:ドイツの薬局には目的別に選べるハーブティもたくさんありますね。一方で、日本の進み具合はどうですか?

林:日本には、世界的に評価されている国民皆保険制度があります。でも、セルフケアの促進にとってはこれがデメリットになっている側面もあります。

欧米では病気になってお医者さんに診てもらうとなると、コストも時間もかかって大変なので、セルフケアに力を入れます。日ごろから自分にちょっとずつ投資することが、結果的に「病気も防げて得だよね」という意識につながっています。

一方、日本はちょっと具合悪いと、すぐにお医者さんに診てもらって薬も処方してもらえるので、自分の健康は自分で守るという意識が根付きづらかったと思われます。

ただ、今は国の医療費が42兆円超と言われる中、そうはいっていられないのが現状です。

 

編集部:約7割が森という国で暮らす私たちなのに、ドイツのような国を挙げての自然回帰は起こらないのでしょうか?

林:私たちの間でもよく話題にのぼりますね。海外の自然療法医に言わせると、日本はまさに宝の持ち腐れです。

おっしゃるとおり、日本には森はたくさんあるし、タラソテラピーという療法に適する海にも囲まれているし、温泉療法の温泉に至っては3000ヵ所もあります。日本人は元来自然との交流をしましたし、自然との親和性はとても高い国民で、ひと皮剥ければセルフケアの中にもっと自然を取り入れるようになると思うのですが、、、。なぜか、いまだに温泉を埋め立てて病院を建てたりしているのが不思議です。

 

自分の身体への意識が高まる周産期を一つのきっかけに

編集部:そのような中で、先生は、大学院で助産婦さんにハーブに関する講義をされていますね。それにはどういう狙いがあるのですか?

林:はい。日赤の大学院で助産師さんに教えています。

元々は、聖路加病院の助産師さんたちが、妊婦さんたちに、甘い飲み物の節制を指導する中で、「妊婦さんにおすすめのハーブティを病院に取り入れたい」という話があったのがきっかけです。

薬のように強くないハーブやその精油成分を使うアロマセラピーは、妊婦さん、子ども、高齢者など、体力が衰えていたり、薬が適さない人にも使えるのが魅力です。ただ、いくら自然のものとはいえ、間違った使い方をすると危ないので、教育的なカリキュラムを作りましょう、ということになったのです。

特に、妊婦さんの周産期は、薬をなるべく控えたいし、食べ物や食生活など全般的に見直そうという意識が高まるタイミングで、そのときにハーブのことを知って体験してもらうのは、出産後の生活にもとても良い影響を与えると考えます。

 

編集部:具体的にはどのようなに教えていらっしゃいますか?

林:妊婦さん用のハーブティシリーズ「mama blend」というものを使っています。

妊娠の期に応じてハーブを選んで飲んでもらうというもので、たとえば、つわりになることの多い妊娠2~4ヶ月はペパーミントのブレンドティ、妊娠4~5ヶ月は出産準備のお茶と言われるラズベリーのブレンドティ、便秘がちになる8ヶ月~産後3ヶ月はタンポポのブレンドティといった感じです。

学んだ助産師さんたちが母親学級で取り入れてくれて、売店で買えるようにもなっています。

例えば、つわりなどの調子が悪いときにミントのハーブティを飲んで気分がよくなったという経験をすると、出産を経て病院を出た後も、何かあったときにハーブティを思い出してもらえるので、周産期にハーブに接することには手ごたえを感じています。

 

編集部:セルフケア意識が高まるタイミングで自然にハーブティに出会うというのは、いいですね。

林:出産というのは、もともと病気ではなく、予防・ケアの領域に入るもので、何かがあると、治療的な介入が必要となります。つまり出産自体が統合医療的な位置づけにあり、その予防・ケアにハーブを積極的に活用するということになります。

 

良い入浴と睡眠で、生命力をゼロレベルに戻すのが大事

編集部:先生自身は、どのようにハーブを生活に取り入れていらっしゃいますか?

林:私は毎日、必ずバスタブに浸かるようにしていて、そのときに、自然塩と精油で作るアロマバスソルトを入れています。筋肉痛があったり、出張などで体が凝るときは、代謝や解毒に良いとされるジュニパーの精油、冬の寒い日は心も温まるオレンジの精油など、目的に応じて精油でアレンジして、楽しんでいます。

 

編集部:入浴にこだわるのもポイントですか?

林:私は、健康を保つカギは、いいお風呂と睡眠だと思っています。入浴は質のいい睡眠のためにも大切です。

ストレスというのは、毎日必ずやってきて、その都度、生命力(生体防御機能)がマイナスレベルに落ちます。それを、夜、お風呂を入って質の高い睡眠をとることで、翌朝までに生命力をゼロに戻すのです。ずっとマイナスのままだと、負の状態がどんどん続いてストレスが蓄積され、健康度が低くなり、それがいずれ病気につながります。

実際、不調な方にお話をうかがうと、シャワーで済ませている方が結構多いのですが、湯船には是非、毎日浸かってほしいです。

 

実効感の裏付けデータと一緒に、もっとハーブの力を伝えたい

編集部:それでは最後に、今後のハーブ普及への熱い思いをお聞かせください。

林:ハーブの裏付け、科学的なエビデンスをもっと強化したいと思っています。

病気が重いときに薬を飲んで治れば、それは非常に効果が明確で印象にも残ります。一方で、予防の領域は効果の証明がしづらいです。

例えば、眠れない時に、ラベンダーのアロマをティッシュに1滴垂らして、眠れたということがあれば、それはそれでいいのですが、それをエビデンスをもって証明できればさらにいいと思います。今は生体センシング技術も進んでいますし、どんどんデータを採って、情報も出していって、その上で実際生活の中に取り入れて、良さを実感してもらえるようにしていきたいですね。

 

編集部:今店頭に置いてある、眠りをサポートするためのアロマシリーズなどで実証できるといいですね。

林:私たちは、植物療法とかハーブやアロマにどっぷりつかっていて、周りもそういう人たちばかりなので、それが当たり前と思ってついマニアな方向に行ってしまうのですが、まだまだ一般的にはその良さが知られていないと思わないといけませんね。

 

わかりやすくて使いやすい商品、情報づくりに努めて、人を癒し賦活させることのできる“植物の力”を、もっとみなさんに知っていただけるようにがんばります。


林真一郎(はやししんいちろう)SHINICHIROU HAYASHI

 

薬剤師 臨床検査技師 グリーンフラスコ代表 東邦大学薬学部客員講師 日本赤十字看護大学大学院非常勤講師 日本メディカルハーブ協会副理事長 東邦大学薬学部薬学科卒 調剤薬局勤務を経てハーブショップグリーンフラスコを開設 著書に「メディカルハーブの事典」「高齢者介護に役立つハーブとアロマ」(いずれも東京堂出版)ほか多数  医師・薬剤師などと情報交換を行いながら統合医療としての植物療法(ハーブ・アロマ)の普及に取り組んでいる。


編集:COCOLOLO ライフ magazine 編集部

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