ストレス社会において、「予防にハーブ」「治療に薬」の両刀使いを目指したい。 薬剤師 臨床検査技師 林真一郎さん 前篇


今回の「こころトーク」は、薬剤師でありハーブ専門店グリーンフラスコ株式会社代表でもある林真一郎さん。長年にわたりハーブに関する研究を続けながら、数多くの書籍の監修やセミナーなどを通して、ハーブのプロから一般の人まで、ハーブの最新知見の発信と普及に努めています。ストレス社会におけるセルフケアの重要性やハーブの持つ可能性について、東京・自由が丘のショップでうかがったお話を、前篇、後篇2回に渡ってお届けします。


薬局は諦めて、ハーブ専門ショップを開くことに

編集部:先生は薬剤師でありながら、ハーブ専門店をされています。ハーブがまだあまり知られていなかった時代に、どうしてそこへ行き着いたのか、まずはその辺りをお聞かせください。

林:ハーブ専門店でやっていこうなんて、今思えば、かなり大胆な決断ですよね。

私の家系は親戚もみんな薬剤師でして、私も薬学を勉強して、薬剤師になりました。

私が大学を卒業したのは1985年頃ですが、当時でも、海外の薬局では、薬を調剤してもらっている待ち時間にハーブティを出しているところがありました。あとで詳しくお話しますが、実はハーブは現存する多くの薬の生みの親です。ですから、薬剤師がハーブを扱ったり、薬局の中でハーブティを出すのも全然変な話ではないのです。

そして、その頃、日本は丁度ストレス社会の入り口にありました。

私自身、ハーブにすごく興味があったので、いろいろ調べて、ハーブには心身に働きかけるさまざまな有用な作用があるということがわかりました。そこで、予防のために主にハーブティを使い、病気には新薬の調剤を処方する、そういう薬局を是非やりたい!と思い、店の図面まで用意したのです。

ところが、薬局を開業するには認可が必要で、「薬局の中で喫茶をやる」ということに対して許可が下りなかったのです。それで、「薬が置けないんだったら、ハーブの専門店をやろう!」ということで、今の業態になりました。

 

編集部:そこで、薬剤師さんが薬をとらなかったのが斬新です。

林:若気の至りでしょうね。もともと構想にあった薬のほうを諦めました。

 

機能性があり日常的に楽しめる。ハーブは予防領域にピッタリ

編集部:そのハーブの可能性、魅力はどこにあるのでしょうか。

林:歴史を200年さかのぼれば、世の中に新薬などなくて、治療は全てハーブで行われていました。また、現代においても、医薬品はとても高価なので、世界規模でみれば人口の4分の1くらいの人にしか流通していません。残りの地域の人たちは、今でも病気や治療にハーブを使っているのです。

ハーブというと、日本では、ホテルやカフェで提供されるおしゃれな飲み物というイメージが強いかもしれませんが、単におしゃれとかそういうイメージ的なものではなく、効能効果というか機能性がちゃんとあるのです。

 

編集部:日本でハーブやアロマの認知が高まったのは、つい最近になってからですよね。

林:はい。私がショップをオープンした当時は、代替療法(通常医療の代替で行われる療法で、伝統医療、植物療法、心理療法、食事療法など)という概念もなかったですね。ただ、私には、薬や現代医療はあくまでも結果に対しての後追いのアプローチで、その手前で対処した方がいいという思いが強くあり、予防領域にハーブがとても適すると確信していました。

薬は強いので予防には適しません。基本的に、病気の時に使って、治ればサッと止めるというのが原則です。一方、予防に適する様々な作用や機能性を持っていて、かつ日常的に楽しめるというポジションにあるのがハーブで、私は特にハーブティに魅力を感じています。

 

病気に役立つ多くの薬のご先祖はハーブ

編集部:医薬品の歴史について少し教えていただけますでしょうか。

林:私たちは、生まれた時から新薬のある環境で育っているので、薬があるのが当然と思っていますが、長い人類史上、医薬品が生まれたのはつい最近のことになります。何千年もずっと前から、人類は長い間ハーブで治療をおこなってきた事実を、意外とみなさん知らないのではないでしょうか。

歴史をさかのぼれば、今より病気やけががあったわけですが、薬のない時代は、身の回りのハーブや、お手当て(患部に手をあてる、今でいうマッサージにあたる)という原始的な癒しの技を使ってきたのです。

それが、「こういうときにはこういう薬草を使うといいよ」という伝承のレメディとなり、今から150年位前に、ようやく、この植物にはこういう「成分」があるということがわかってきたのです。

 

編集部:成分が特定できて、それが薬の誕生につながったのですね。

林:今や誰もが知っていて、世界中で頭痛や解熱の際に使われている「アスピリン」ですが、この薬が世に出たのが1899年。わずか120年前のことです。因みに、アスピリンの生みの親は、「セイヨウシロヤナギ」と「メド-スイート」というハーブです。

植物から有効な成分をつまみ出すことを「単離」といいますが、それによって原因に対して効果を発揮できる薬ができるようになり、さらにその後、化学合成により安く大量生産できるようになり、次々と薬が世に出るようになりました。

実は、わたしたちが病院でもらう薬の4分の3くらいはハーブが起源です。アスピリンのように歴史のある薬だけではなく、タミフルなどの新しい薬も、実は自然の薬草が生みの親であることが多いのです。

 

現代医学の新たな壁となった「心の病」

編集部:薬の祖先はハーブと聞くと、その偉大さがよくわかります。でも、結局はハーブより新薬が効果的、ということになったのでしょうか?

林:新薬のことを「魔法の弾丸」ということがあるのですが、新薬は効く成分だけを単離によりつまみ出して作るので、確かに威力は強いです。

例えば、抗生物質は、コレラだったらコレラ菌、赤痢は赤痢菌と原因がはっきりしているものに対して威力を発揮するわけです。

ですが、ある時から増えて来た「心の病」に対しては、魔法の弾丸の理論が通用しなくなりました。ストレスが蔓延しているからといってストレス菌がいるわけではないですからね。

ここで、近代医学が壁にぶち当たってしまったのです。抗生物質をはじめ新薬がどんどんできることがわかったときは、地球上から病気なんかなくなるんじゃないか、と言われたのに...。戦う敵が見えなくなってしまったのです。

 

編集部:確かに、ストレスの原因も症状も人それぞれで、一筋縄にはいきませんね…。

林:ほかにも、ある時期、薬害とか、医薬品の持つ負の部分が一気に明るみになりました。例えば、薬というものは強いですから、女性や妊婦さん、高齢者や小さなお子さんには副作用の危険が指摘されるようになりました。こうした様々な壁に直面し、先進諸国において、「現代医学以外になにか解決策はないのか?」と探究する動きが活発になりました。

 

編集部:それが、先生が重視される「統合医療」ということになりますか?

林:そうですね。統合医療とは、医薬品、手術、放射線などによる近代・西洋医学と、ハーブを始めとする植物療法、心理療法、食事療法などの代替療法のいずれも視野に入れた、患者中心の医療のことです。

冒頭にお話したように、「ハーブティの飲める薬局」の開業を目指していましたから。薬もあって、先祖返りのハーブもあり、その両方を選択する統合医療が望ましい姿だと思っています。

 

 

後篇に続く


林真一郎(はやししんいちろう)SHINICHIROU HAYASHI

 

薬剤師 臨床検査技師 グリーンフラスコ代表 東邦大学薬学部客員講師 日本赤十字看護大学大学院非常勤講師 日本メディカルハーブ協会副理事長 東邦大学薬学部薬学科卒 調剤薬局勤務を経てハーブショップグリーンフラスコを開設 著書に「メディカルハーブの事典」「高齢者介護に役立つハーブとアロマ」(いずれも東京堂出版)ほか多数  医師・薬剤師などと情報交換を行いながら統合医療としての植物療法(ハーブ・アロマ)の普及に取り組んでいる。


編集:COCOLOLO ライフ magazine 編集部