高齢化とAI化が進む中、パフォーマンスの役割はますます大きくなっています。 パフォーマンス学・心理学 博士 佐藤綾子さん 後篇


時代が変われば自己表現も変わらなくてはいけない

編集部:今は誰でもSNSで発信するようになり、ロボットがホテルの受付をする時代です。パフォーマンスを取り巻く環境が随分状況が変わっていると思いますが、パフォーマンス学の意義はどのように変化していますか?

佐藤:いいことを聞いてくれますね。その通りで、時代が変われば自己表現も変わらなくてはいけません。

1980年にパフォーマンス学を日本に紹介したときは、グローバル化を見据えてのことでした。国際化する社会において日本人はなんて自己表現が下手なのだろうという課題意識を強く持っていました。
でも正直言って、その時点でこれほどの高齢化とAI化は予測していませんでした。これらを社会ニーズとして捉えて取り組み始めたのは10年前からです。

 

編集部:具体的にはどのような取り組みをされていますか?

佐藤:一つには、現在、認知症を表情から読み取るAI開発に参画しています。
高齢化に関しては、介護されるお年寄りの生活環境や質などがどんどん多様化して様々な問題が顕在していますが、最近では介護独身といって親を介護していて婚期が過ぎてしまう人や介護離職といった介護する側の問題も大きくなっています。

「高齢化」の様々な問題の根本解決には、介護の期間を減らしたり薬代を少なくするにはどうしたらいいかを考えなくてはいけません。そのために、認知症になる前に、介護する側が早い段階で表情から認知症の兆しを読み取ることが出来ることはとても有効な手段です。その着眼からAI開発にパフォーマンス学を活用した取り組みを行っています。

また、別の取り組みでは、介護する側のパフォーマンス(しゃべり方や表情など)一つで、介護される側が元気になれるということで、パフォーマンス学を活かしています。

高齢心理学独特の特徴として、介護される人は依存欲求がどんどん増していきます。モノが取れないから取って欲しい、話を聴いてもらいたい、、、と、介護してくれる子どもやお嫁さんへの依存欲求が増えるわけです。それが重なるとだんだん介護者にも負担が重なってきます。実際介護の現場では、人も時間も限られています。そうすると、どういうやりとりをすれば効果的に時間を縮めながらかつ介護者を元気づけられるかという視点が必要になるのです。

 

 

お年寄りの心の変化も接し方次第。
介護でも活かせる「笑いの効用」が明らかに

編集部:介護する側は、前回お話したようなストレスマネジメントを行って、介護される側は介護者のパフォーマンスで元気にするということですね。

佐藤:「高齢者における笑いの効果の実験研究」を虎の門病院と組んで行いました。こちらは、日本医療学会の論文として掲載しています。
対象者は、ある都内の中学校に健康体操をしに来ているお年寄りで、実験に協力してくれる方を募ったら偶然全員女性で、平均年齢は75歳の11名でした。

実験期間を8日間設けて、そのうち2回、体育館に集まってもらいました。

-1回目(初日)は、お年寄りに1分間スピーチをしてもらって、その後私が笑い話をします(ラーフタイムという)。
-2回目(8日目)は、その逆で私が笑い話(ラーフタイム)をして、その後お年寄りに1分間スピーチをしてもらいます。

そして、2回とも、血中酸素濃度や血圧や体温、そして発話数などを測定して、8日間の実験前後で数値を比較をしたのです。

結果は見事でした。「表情筋」が動く秒数、「血流」、「血中酸素」濃度が増え、一方で「血圧」は下がりました。また、1分間の「発話ワード」数も優位性をもって増えました。そしてアンケートを回答してもらったところ、自分の「笑顔への自信」が高まったのです。

 

編集部:すごくわかりやすい笑いの効用ですね。

佐藤:みなさんこの話をすると、「いったいどんな笑い話を話したんですか?」と聞かれますが、お年寄りにはお年寄りが自分ゴトできる話題の提供です。若い女の子が箸が転んでもおかしいというのとは違います。
お年寄り自身が日常感じていて共感できるようなちょっとした失敗談や恥ずかしい思いなどを話せばゲラゲラ笑い転げて、セミナーの間も全く退屈なんかしませんでした。

さらに、話をする前に、「面白かったら遠慮しないで笑いましょう」「隣の人が笑っているくちゃくちの顔を見ておかしかったらもっと笑いましょうね」と声をかけておくのです。
そんな風に発信者の働きかけ次第で、受け手も笑って元気になれるのです。こうした笑いの効用は介護の現場にもどんどん取り入れていってほしいです。

 

 

AIには決して出来ない仕事。
それは、目の前にいる人の不安を解消すること

編集部:では、加速するAI時代に対してはどういった視点が大切になりますか?

佐藤:AIができることはとてもたくさんありますよね。IBMのワトソンはジェネラルドクターよりも早く病名が言えるようになっていますし、ブロック塀の強度チェックはゴガンゴというAIロボットが塀の前に立つだけでできるのです。そして、ご存じのように2045年には単純労働の49%はAIに取って代わられると言われています。

ですが、AIにできない仕事があります。それは、目の前にいる人の不安を解消してあげることなのです。
人間関係作りには、3ステップありまして、①不特定性の解消 ② 不安の解消 ③ 安心の提供 です。

①はどこのだれかを識別するということで既にAIでできます。
でも、②と③ができるAIはまだありません。レイ・カーツワイルという最初にAI時代を予告したコンピューター研究者は、どこまで行ってもAIで不安を解消することはできないだろうと言っています。

 

 

心が弱っている人への関わりは、「姿勢」「アイコンタクト」「表情」の3つを参考に

編集部:心が弱っている人に接する際、弱っている人のパフォーマンス上の特徴――見た目でわかる表情や態度など――の知識を予め持っていると関わり方も変わるのではないかと思いますが、いかがですか?

佐藤:心が弱っている人を見分けるには、「姿勢」「アイコンタクト」そして「表情」の3つがポイントになります。
傾向として、人は心が弱っていると、

  • 「表情筋」の動きの秒数が減ります。つまり、顔の表情が動かなくなります。
  • 「アイコンタクト」の秒数も減ります。目を見て話さなくなったり、下を向いて話します。
  • 「姿勢」に関しては、パワーがなくなっている時は背骨が曲がるので、猫背になります。

通常この3つが大きな特徴ですが、さらにひどくなると、「歩幅」が減ってトボトボ歩くといったパフォーマンスに現れたりもします。

 

編集部:どれもわかりやすいですね。一方で、この中で普段から心の健康のために心がけるといいことはありますか?

佐藤:それは「姿勢」を直すことですね。残念ながら表情を直すのは長年の癖がついていてなかなか容易ではありません。
先述した「高齢者における笑いの効果の実験研究」でも明らかなように、血中酸素の量が多い方が心には良いわけです。姿勢を良くして胸を開けた方が肺が広がってたくさん酸素が入ってきます。良い姿勢を心がけることをおすすめします。

 

返報性(Reciprocity)がある関与。
若いうちからコミットメントを心がけて

編集部:今回いろいろなお話を伺いましたが、ストレス社会においては自ら関わるということ(Commitment)が大切ということが印象に残りました。

佐藤:そうです。人間は社会的動物だから誰かと組まないとできないことばかりですから、自分から関与していくことはとても大切です。AIができない不安の解消という意味でも、やはり社会全体として、関わる気持ちは全員が持っていないといけないのではないでしょうか。

そして、関与には「返報性(Reciprocity)」があります。関わった相手は、いつか自分に関わり返してくれるというものです。

幸いなことに、高齢化とAI化で私のやるべきことはますます増えています。しかしながら、私自身が今71歳ですから立派な高齢者です。当然のことながら、若い人と組まないと出来ないことや、若い人と組んだ方が効率がいいことがたくさん出てきています。
でも、かつての教え子や縁あって助けた人などは電話一本で私を助けに来てくれます。これまで人に関与してきて、いい方のツケが戻ってきているなぁ、と最近感じるようになりました。

返報性の観点でいえば、20代30代、もっと言えば10代のうちからでも自主的に関わっていってほしいですね。関わってきたことは最終的にきっと実を結びます。そして、それがストレス耐性(Hardiness)にもつながり、豊かな人生を歩むことにつながります。

 


佐藤 綾子(さとう あやこ) AYAKO SATO

ハリウッド大学院大学教授・日本大学藝術学部講師
日本大学校友会桜門社長会顧問

信州大学教育学部卒、ニューヨーク大学大学院パフォーマンス研究学科卒(MA)、上智大学大学院英米文学研究科卒(MA)、同博士課程修了、立正大学大学院心理学専攻、博士(パフォーマンス学・心理学)
パフォーマンス心理学の第一人者として、累計4万人のビジネスリーダーとエグゼクティブ、首相経験者含む54名の国会議員等のスピーチ指導。単著単行本191冊著作累計319万部。(2018年現在)


編集:COCOLOLO ライフ magazine 編集部


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