心が疲れたら立ち寄れる、女性のライフステージ上の「給水所」でありたいです。 カウンセラー・コーチ 久保木恵子さん 後篇


愛情タンクを満たしていけば、自ずと愛情を注げるようになる

編集部:前回、育児とはアンコントローラブルで疲れて当然。だから負の感情が出てきても抑え込まないでいいんだよ、というお話がありました。そういった感情の一種に、人によっては子育てを通して幼少期のトラウマが浮上し両親への怒りに苛まれることもあると読んだことがあるのですが。

久保木:実際にカウンセラー仲間と話をする中で、産後のタイミングは、母親への憎しみや悲しみといった「歪み」や「トラウマ」が噴出することが多いよね、という話になることはあります。

これに関しては、フライバーグというアメリカの乳幼児精神科医の有名な言葉で「赤ちゃん部屋のおばけ」というものがありますので、ご紹介します。「母子臨床と世代間伝達(渡辺久子著)」からの引用です。

「幸せな乳幼児期体験を持つ母親は、赤ん坊を抱きながら、知らぬ間に幸せな情緒に充
たされるが、不幸な乳幼児体験を持つ母親は、赤ん坊の泣き声や他の要求に思わず得体のしれない苛立ちや不安を覚え、赤ん坊を抱きながら人には説明しようのない葛藤に苦しむ。
それはまるで忘れていた過去の亡霊が現れるような原始的な深い不安であり、フライ
バーグ(Fraiberg,S)は「赤ちゃん部屋のおばけ」(goasts in the nursery)と名付けている」

 

編集部:乳児や児童専門の精神医療分野で研究されてきたことでもあるのですね。

久保木:また、ある事例では、小児精神科医の所へ、あるお母さんが1歳半の娘を連れて訪れたところ、医師の注目を独占しようとする言動を繰り返したのです。
このお母さんは、医師の注目が少しでも娘に注がれると、自分へと注目を引き戻すのです。そこで医師がお母さんの幼少期のことを聴いていくと、実母は妹ばかりをかわいがり、自分はいつも蚊帳の外だったことがわかります。

つまり、カウンセリングの場において、医師が“母親”娘が“妹”となり、“母親”の愛情を取り合っていたのです。お母さんは泣きながら感情を吐露します。
やがて、そうしていくうちにそのお母さんは先生の愛情を一歳半の娘と取り合うのではなく、自然と母親として自分の愛情を娘に分け与える様になったそうです。

つまり、自分の中の愛情タンクが枯れていたら子どもに渡すことは出来ないということです。
愛情は、子どもに分け与えようと思って分け与えられるものではないので、愛情タンクが不足しているのに頑張って頑張って愛情をかけようと努力していると、ある日突然プツッと切れてしまうことがあるのではないでしょうか。
最近毎日のように報道される虐待などの辛いニュースを聞くと、そんなことをふと考えてしまいます。

 

 

自身のトラウマに気づくということは、大人になった証拠

編集部:先ほどの臨床医のお話にあった母親は娘に愛を分け与えられるようになりました。きちんと心の専門家について感情と向き合えば、誰でもトラウマからラクになれるのですか?

久保木:ラクにならないトラウマはない、と私は思っています。トラウマは無理に乗り越えようとしなくてもよいのです。お母さん自身が自分の感情と向き合って、自分の中にある傷ついた子どもを癒していけば、気持ちもラクになり子育ても自然とラクになってくるでしょう。

「大人になって、幼少期のトラウマに悩むなんて恥ずかしい」と言うクライアントもいますが、全然恥ずかしいことではありません。むしろ、トラウマは現実が認識できる大人になったからこそ気づくものなので、成熟した証でもあるのです。

 

思い込みや枠など、自分を縛り付けていることから自由になって

編集部:お母さんの置かれた状況はそれこそ家族構成や周りのサポートといった環境によってもまちまちだと思いますが、久保木さんがカウンセラーとして、お母さんたちに一番伝えたいメッセージというと何になりますか?

久保木:一番伝えたいのは「なんでもアリでいいんだよ」ということでしょうか。
世のお母さんは、「お母さんだからこうでなきゃ」という思い込みが強く、それに縛られて苦しんでいることが多いです。育児情報も溢れる中、色々な枠に縛られていますし、自分の感情を抑圧し続けるのはとても辛いことです。

私は、「そういう価値観もあるけれど、それはそれ。あなたはどうなの?あなたの好きなやり方でいいんじゃない?」とお伝えします。
繰り返しになりますが、お母さん自身の心が自由になることでお母さんはラクになれます。そうすれば自ずと子育てもラクになりますから。

 

編集部:具体的にアドバイスされることはあるのでしょうか?

久保木:私の場合アドバイスはあまりしていないと思います。うまくいったカウンセリングを振り返ると、とにかくクライアントがたくさん気持ちを吐き出してくれたケースです。私はクライアントが安心して話せる信頼関係を築いたら、とにかく気持ちを言葉にして出してもらうことに注力します。

「母親だからこうでなくては」といった思い込みを、みなさん自分が作り上げた「思い込み」だと認識していません。だいたい、自分の中の「価値観」「モットー」「常識」「信条」といったコトバに置き換えられているのです。
でも、「あなたは、なぜそう思っているのかな?」と投げかけて、言葉にしていく作業を通すと、自分を縛っている様々な事柄に気づいていきます。
クライアント自身がその束縛に気づいて、その思い込みは自分に必要ないと思えば捨てればいいですし、無理やり捨てなくても構いません。その判断は私がアドバイスするのではなくてクライアントが自由に行うことなのです。

 

 

女性のライフステージ上の分岐点の給水所になって、ちょっと疲れたら立ち寄ってほしい

編集部:私が出産した頃は「産後うつ」という言葉すらなくて、もっていきようのない感情に日々悶々としていました。育児書の枠や世間一般の価値観に縛られるというお話も含めて思い当たることばかりで、当時カウンセリングを受けていたら気持ちがラクになっただろうな・・・と思いました。

久保木:そうですよね。一般論ですが、親しい人との死別や失恋は不幸な出来事であり、周りの人たちの理解や共感を得られやすい事象といえるでしょう。一方で、出産と育児は一般的に幸せな出来事と捉えられるが故に、親が、特にお母さんは、葛藤や不安を表現できない傾向にあります。

でも、ものごとには光があれば影もあります。大切なことは影を排除するのではなく、影にも光を当てることだと考えます。要らない感情なんて何一つないですし、抑え込まなくてもいいのです。

ホルモンバランスが崩れるのはもちろんのこと、仕事を辞めなきゃとか、復職どうしよう、、、、、とか。出産は、女性の身も心も環境もガラッと変わる大きな出来事で、その前後はとても大変な時期であることは間違いありません。そのことは周囲、特に旦那さんにはしっかり認識してもらいたいと思います。

 

編集部:それでは最後に、今後の抱負をお聞かせください。これからも久保木さんは乳幼児のお母さんの心の専門家として活動を続けられるのでしょうか?

久保木:そうですね。もちろん出産は大きな節目ですが、女性のライフステージには結婚、転職、独立・・・など様々な分岐点があり、その都度悩みがあったり気持ちの整理が必要だったりします。
ですから、そういった様々な女性のライフステージ上の「給水所」になりたいと思っています。

どんなステージにいようと、「まずは自分から」です。自分のどんな感情も大切に思えたら、他人のどんな感情も大切に思えるものです。ますます社会に出ていく女性が増え、生き方も多様化する中で、給水所を設けて女性の心に寄り添っていきたいです。

 


久保木 惠子(くぼき けいこ) KEIKO KUBOKI

ライフスタイルが大きく変わる妊娠出産・育児期の女性の心のケアを専門に、相談者に寄り添うコーチングやカウンセリング、執筆活動を行っている。
育児中のイライラや孤独感、母親としての責任感や罪悪感に苦しむ方々の気持ちを少しでも楽にすることが目標。プライベートでは自身も乳幼児の母親であり、子育て真最中。
1996年に明治大学卒業後、不動産業界で営業やアセットマネジメントに約15年間従事し、コーチとして独立。JCELA認定コーチ。女性専用の電話相談「ボイスマルシェ」専門カウンセラーとしても活躍中。


編集:COCOLOLO ライフ magazine 編集部


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