現役引退後の葛藤の中、人生を変えたある写真とは?元女子バドミントン選手・小椋久美子さん


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現代社会はストレスとの闘いです。「こころを整える」ためにどうすればいいのか、各界の著名人をゲストに招いてCOCOLOLOライフmagazine編集部がメンタル面の変化に着目しながら切り込んでいく「こころトーク」。

今回のゲストは、前回に引き続きバドミントンの女子ダブルスペア日本代表として「オグシオ」コンビで世界中を沸かせた元女子バドミントン選手の小椋久美子さん。COCOLOLOライフmagazine編集部の板生研一(WINフロンティア㈱代表・医学博士)との対談形式で、現役引退後に起こった葛藤の中、小椋さんの人生に変化を与えてくれた「きっかけ」について語って頂きました。

 

人生初の「一人旅」が見えない不安から解き放ってくれた

編集部:現役を引退されてからお仕事のスタンスが変わった中で、気持ちを切り替えられた「きっかけ」はありましたか?

小椋:現役を引退してから9年間くらい経ちますが、最初の4~5年は子どもたちに教えるコーチとしての仕事が中心でした。テレビの仕事や取材もあまりやらずに解説をちょっとやらせて頂いたくらい。現役引退後から仕事スタンスを変えて本当に頑張れるようになったのってここ4年くらいです。とりわけ自分の内面がスッキリしたのは昨年の4月くらいですね。

 

編集部:その4月になにか明確に「変わった」という感覚があったのでしょうか?

小椋:人生初の一人旅をしてから変わりましたね。私にとって自分の人生は感性や感覚が全て。本当に直感で生きているようなタイプなんです。

一人旅を決める時もいろいろと考えましたよ。いつまで貯金をすれば自分の不安がなくなるんだろうと思う反面、これだけ貯めていても明日私が死んだら終わるな〜とか。何のために貯金をしているんだろうと考えながらも、ここで一人旅をしたタイミングで仕事のスケジュールが入ったらどうしようかな…と自問自答(笑)長期の休みをとったことがないから自分の好きなことをするのはどうなんだろうと思いましたが、世界を見たり海外の人と交流してみたいと自分の中にある「一人旅をしてみたい」という直感が出てきて。

ここで何もしないのでは人生がもったいない!と思い一人旅を決めました。

 

編集部:国内海外ありますが、一人旅はどちらへ行かれたんですか?

小椋:オーストラリアとニュージーランド2ヶ国へ行きました。その後にもう一度一人旅をしたいなと思い、ドイツに一週間。もう完全に自分の直感でしたが本当に行って良かったと思います。もちろん日本である程度どこに行くかを事前に計画してから行くんですけど、実際はスケジュールだけ抑えて現地は自由行動。行きたいところ、やりたいことを全てやろうと思い、まずは交通機関を全部制覇。電車やバス、レンタカーで車を借りて…フェリーにも乗りました。

 

 

編集部:現地でのコミュニケーションはどうでしたか?英語とか…。

小椋:英語は全く話せないのでバスに乗る時はドキドキでしたね。でもそれもひっくるめて楽しもうって。そういう経験が本当に大切で、その時に見た景色は今でも鮮明に覚えています。たぶん自分が見て感じた景色って、他の人が見たものとは違う感性と感動があると思うんです。日本に帰国したとき、あらためて一人旅での経験が「個性を大切に思うこと」に繋がっているんだなと感じています。

 

編集部:一人旅の景色画像はブログやツイッターにも載せていましたよね。

小椋:基本的に一人旅の時の画像はあまり載せないのですが、オーストラリアの景色画像はアップしました。

 

編集部:ブログは僕も拝見させて頂きました。小椋さん、こんなことも考えているんだなって。小椋さんが近くに感じましたね(笑)

小椋:そんな風に見てくださる方もいらっしゃるんですね。例えばその日の仕事についてブログに書く時もこの人を見たときに思ったことや私もこうなりたいと感じたことを私は心情的に書くことが多いんです。でも今からお見せする写真についてはブログで語りたくないというか、会った人に直接伝えたいなというのが自分の中にあって。普通の写真なんですけど、ちゃんとこの光景を見せたいというか…。

 

広大な自然の中で佇むたった1つの小さな岩の存在が自分と重なった

編集部:写真の場所ってオーストラリアのどのあたりですか?

小椋:オーストラリアのグレートオーシャンロードという道のずっと先にある十二使徒という光景なんですけど、元々は12の岩があった場所なんです。今は7個くらいしか岩がないんですけどね。私はこの景色にある1つの岩に心が惹きつけられました。

 

編集部:普通に見てもステキな景色ですよね。

小椋:そうなんです。太陽がすごくキレイで良い景色なんですよ。でも、実際は波と音がすごくて。とにかく潮風が強い場所で見ただけの景色じゃなくて五感全体が感動するというか。内にあるものを掻き立ててくれる感覚でした。この場所に来る前は、それこそ精神的に追い込まれて落ちていた状態で…自分の存在価値が分からなくなってしまっていたかたから。生きる意味ってなんだろう?と考え込むくらい落ちていた時に見た光景だったからなのかな。

無数にある岩の中で、たった1つの小さな岩に感動する自分がいたんです。普通に見ていたら見逃しちゃうようなただの岩なのに、私はそこに感動してしまったんです。

 

編集部:たしかに、小さな岩よりも断崖絶壁の方に注目しますよね。

小椋:断崖絶壁もすごいなと思うんですけど、なんで正直どうでもいい岩に感動するんだろうってボーッとしながら見ていましたね。この岩がなくても別に成り立つ岩だし、とりわけ何かスゴイというものがあるわけでもないし。だけど、この小さな岩に感動するということは「あ、これはここにいなくちゃいけない岩なんだ」って自分の中でふと解釈される瞬間があって。この岩があることによって私は感動するし、岩の存在意義を感じることができたんだと思ったらしっくりきました。

強風の中、強い波風に打たれて12個あった岩がどんどん削れてしまっている状況の中で、小さな岩が立ち向かっているんだって思ったんです。この岩が先頭に立って他の岩を守っているというか。小さな岩が頑張っている姿に私は感動していたんですよね。

自分が価値のない人間かもしれないと落ち込んでいる中で、この岩の存在を見ることで「ここで生きているだけで誰かの役に立っている」と思えました。岩と自分を重ねていたというか…。誰かの感動になる、誰かの役に立つ、そんなことを考えさせられました。自分が縁の下の力持ちで支えることで誰かが輝けるよねって。その役割こそが自分が存在する意義だと感じました。

 

オーストラリア/十二使徒(小椋さん撮影)

 

編集部:意外ですよね。小椋さんはむしろ輝いていた方じゃないですか。

小椋:私、本当にどん底まで落ちる人なんです。でもこの小さな岩と出会った時に、この岩と自分は同じだと直感しました。生きることで人として誰かの役に立っているんだと確信した瞬間ですよね。別に自分がすばらしい人間でなくてもいい、万人に好かれなくてもいいと思えるようになって。それが自分の個性をもっと大切にしようと思う気持ちに繋がりました。自分を必要としてくれる人にとって必要とされる存在であればいいんじゃないかって岩を見て開き直ることができたなと思います。

 

編集部:小椋さんの一人旅、深くて良いお話ですね!

小椋:一人旅をして本当に良かったです。そこから捨てられるものが捨てられて、自信になるものだけが残っていったような感覚があるんですよ、実際。今でもこの小さな岩が写っている写真は見ますね。写真を見ると、気持ちがまたあの時にスッと戻れるんです(笑)写真を見なくても「自分の個性を大切にしよう」「自分はそのままでいいから」と呪文のように唱えるような感覚で思い出すことも。このままで大丈夫だよと自分に伝えてあげると、あの時の景色を思い出すし、初心に戻れるんです。

 

歴史ある古い建築物や自然を見ると心がリフレッシュされる

編集部:良い意味でリセットされるんですね。オーストラリアをはじめ、ニュージーランドとドイツを周遊されたとのことですが、一人旅の行き先には何か理由があるんですか?

小椋:最初はアメリカに行こうと思っていました。でも、オーストラリアやニュージーランド、ドイツには知り合いがいたから安心感があったんですよね。治安のことも含め、本当に一人旅行けるかな?と不安もありましたので。ちょうどヨーロッパでテロがあった時期と重なっていたので心配もありましたが、意外と平気でした。むしろ良い時期に行けましたね!ドイツもサマータイムだったから夜9時を過ぎても明るいんです。最高でしたね〜!

 

編集部:ドイツはどのエリアに行かれましたか?

小椋:ドイツに行こうと思った理由が「ベルリンの壁」を見たいからだったんです(笑)強制収容所やゲシュタポ本部跡地を訪れてみたり。1日10キロ以上歩いて日もありましたよ。ベルリン大聖堂とかすごくオススメです。他にもシンデレラ城のモデルになった「ノイシュバンシュタイン城」や友人が住んでいるトリーアという古い街に行きました。リゾート地よりもヨーロッパの古い建造物が大好きだからひたすら歩いて写真を撮っていましたね。そこに感動してしまうというか。緑がたくさんある山を見ると心が元気になります。それこそ私にとってのリフレッシュ法が「緑」なんだと思います。

 

 

編集部:日本にも山々の自然はたくさんありますよね。

小椋:日本は少し疲れているような気がするんです。なんだろう…紅葉や新緑の時季に見る色とりどりの緑は大好きなんですけど、冬は少し元気がないな〜と感じてしまうんですよね。

 

編集部:なんでしょうね(笑)日本と海外の感覚って少し異なりますよね。緑だけでなくて、例えばその辺でサッカーをやっていれば、通りがかりの外人が入ってきていつの間にか一緒にプレイしているとかありますよね。

小椋:外国での距離感、私もいいな〜と感じる時あります。日本はどこか閉塞感があるというか。海外に行くと開放感を感じられて気持ち良くなれるんですよね。そういう感覚もプラスして、オーストラリアで見た小さな岩に感動できたのかなと改めて思います。

 

現役を引退され、仕事のスタンスを切り替えてからも葛藤があったという小椋さん。一人旅で出会った小さな岩との触れ合いが、その後の人生に大きく影響を与えたと語ってくれました。現状に満足ができない時、なにか自分を変えたいと思った時、「一人旅」を選択することで「心を整える」行動を起こしていた小椋さん。自分の個性を大切にしながら新しい仕事に取り組んでいる姿は現役時のようにキラキラと輝いていました。

次回は小椋さんが見た日本人選手と外国人選手のメンタル面での違いやスポーツにおけるデータの見える化の必要性についてインタビュー。試合という現場で活躍していたからこそ感じることを語ってくれています。どうぞお楽しみに!


編集:COCOLOLO ライフ magazine 編集部


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