呼吸はルールではなく、ツールである〜ポールスターピラティス創始者が説く「正しい呼吸」とは(後編)

今している活動が要求する呼吸量にマッチしているか

呼吸が「正しい」とはどういうことか。それは「今している活動が要求する呼吸量にマッチしていること」だとアンダーソンさんは言う。そして本来、人間の身体は自然とそうした「正しい呼吸」をするようにできている。だから、エクササイズ中に「いつ吸って、いつ吐くのか」に注目することは、実はそれほど重要ではないのだという。

このことは、解剖学や生体力学に照らすことで裏付けられる。

アンダーソンさんによれば、血中の酸素と二酸化炭素の量が変動すると、それが神経を通って指令として伝わり、横隔膜が動く。横隔膜が動くと腹腔内圧が変わるから、自然と空気が出入りして、酸素と二酸化炭素の量が整えられる。シンプルに言えば、これが呼吸のメカニズムだ。

一方で、身体を物理的に支えるのには、腹腔内圧が一定に保たれている必要がある。呼吸によって空気が出入りすれば内圧は変わり、複雑な活動をすれば出入りはより激しくなるが、腹腔を囲む横隔膜、骨盤底筋、その他の筋肉には、腹腔内圧を一定に保つための自動調整機能があるのだという。

つまり、その働きに従っていさえすれば「正しい呼吸」になるということだ。

しかし、身体のアライメントが整っていないとそれがうまく機能しなくなる。例えば肋骨のアライメントが整っていないと、その動きが制限され、肋骨に付着している横隔膜も正しく機能しなくなる。それでも腹腔内圧を一定に保とうとすれば、無理をして他の筋肉で呼吸を促進するしかない。こうした「非効率」が、巡り巡って身体の様々な場所の痛みにつながっていく。

「呼吸が動きを邪魔せず、ちゃんと促進しているのかどうかに気付ける感覚を持つことが重要」とアンダーソンさんは言う。ピラティスを通じて複雑な動きをすれば、それだけ呼吸が必要なシチュエーションに置かれることになる。それを重ねることが、必要な身体感覚を育てるのだという。

逆に言えば、インストラクターが常に「ルール」を指示してばかりでは、そうした感覚は育たない。「だからインストラクターは、クライアントの身体にいま何が起きているのかを見ることに時間を使うべきだ。その上で、クライアントと一緒に正しいアライメントを探っていくことだ」とアンダーソンさんは説く。

 

エクササイズを信頼しよう!

ピラティストレーナーばかり250人を対象にした最新の研究結果によれば、「骨盤底筋を引き上げてみてください」と言われて実際に引き上げることができた人の割合は、50%に満たなかったという。一方で、同じ人たちに「深く吸って、深く吐いて」と指示したところ、息を吐いた時にはほとんどの人の骨盤底筋がしっかりと上がっていた。

このことから分かるのは、一生懸命コアを鍛えても、それが骨盤底筋の機能不全の改善にはつながらないということだ。しかしだからと言って、ピラティスのエクササイズに意味がないという結論には至らない。

むしろその逆で、ジョセフが提唱したピラティス本来の意味に従ってエクササイズを行っていけば、「鍛えよう」と意識せずとも自然とアライメントは整い、呼吸は深まり、そのことが全身性の健康につながっていくということだ。

科学的な理解を深めれば深めるほど、直感的にこのエクササイズを作った天才たるジョセフの偉大さに気が付くことになるとアンダーソンさんは言う。

「ジョセフが言っていたことは実にシンプルです。エクササイズをして、栄養をとって、清潔にして、よい睡眠習慣をとって、新鮮な空気と陽の光を浴びて、仕事と遊びと休息のバランスをとる。これが必要なことの全てです。そうすれば人は幸せになれる。それが、ジョセフからのメッセージなんです」

 

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