4つのボディワークから見た、あるべき呼吸とは?〜フランクリンメソッド、アレクサンダーテクニークの専門家に学ぶ(前編)

ピラティスをやっているだけでは身体の緊張がなかなか抜けないという人も、他のワークと掛け合わせれば、もっと機能的に動けるかもしれない。それぞれのワークにおける呼吸の考え方の類似点・相違点を見ていくことで、より大きな視点で捉えられるようになるかもしれない。

フランクリンメソッド、アレクサンダーテクニーク、フェルデンクライス、ヤムナメソッドという4つのボディワークの専門家が呼吸をテーマに講演した、『Pilates World 2016』内のセッション「様々なボディワークと呼吸法」をレポートする。

 

フランクリンメソッド--山口由紀さん

最初に登壇したのはフランクリンメソッドの山口由紀さんだ。

山口さんによれば、フランクリンメソッドはスイス生まれの元ダンサーであるエリック・フランクリンが約30年前に開発したメソッド。ダンサーとしての自身の経験の中で「身体の動きや仕組みを知った上で動いた方が効果が早い」ということに気付き、それを機能解剖学や生体力学などの上に体系化したものという。そのため、ダンサーなどのパフォーマーに実践者が多く、NYのジュリアードスクールなどでも取り入れられている。

その根幹には「自分の身体を改善するのは自分自身であるという考え方がある」と山口さん。そこでは、いかにして自分の身体を感じることができるようになるかが重要になる。山口さんはそのプロセスを、①自分の身体を感じる、②それを評価する、③評価した結果何をしたらいいか作戦を立てる、④それを実行する--の4段階に分けて説明していた。

具体的な手法としては、「肩がスルスル動く」、「羽根のようにフワフワ動く」といったふうに、イメージの力を借りるのがフランクリンメソッドの特徴の一つという。セッション内では代表的な呼吸筋のエクササイズとして、横隔膜のドーム状の形を両手でモデリングし、それを自分の呼吸に合わせて上下に動かすことを通じてイメージを膨らませることを行った。

より本質的なところでは、体内の固定受容感覚に働きかけるというのがこのメソッドの理論的な背景になる。固定受容感覚とは、身体の各部位の位置と動きをちゃんと確認できる能力のこと。例えば、腕をタッピング(叩く)したりストローキング(撫でる)したりすることで「脳が腕の存在をありありと感じられるようになる」(山口さん)ことを目指す。そうすることで筋肉は、過度なトレーニングやストレッチをしなくとも、あるべき自然な状態に近づくのだと山口さんは説明する。

セッションでは、「あー」と大きな声を出しながらその場でジャンプしたり、「まー」と叫びながら身体全体を大きく揺すったりする動きを繰り返した。これらも、直接触れることのできない横隔膜の受容感覚を得るためのエクササイズということのようだ。

 

アレクサンダーテクニーク--ポール青木さん

続いて登壇したのは、アレクサンダーテクニークのポール青木さん。

アレクサンダーテクニークは、オーストラリア人俳優のフレデリック・アレクサンダーが、声が出にくくなった自身の問題を解決するために発案したとされる。その原因が心身の不必要な緊張にあったこと、その改善の手がかりとして頭・首・胴体の関係が重要であることなどに気付き、1900年ごろに渡英して、メソッドとして教え始めたものという。

100年以上の歴史があるためその解釈には諸説あるというが、青木さんによればその基本的な考え方は、「身体の痛みやこり、呼吸の制約の原因は、過剰に筋肉を動かしていること=過剰共縮にある。だから筋肉を動かすのは最小限にとどめ、効率的に動くことを目指そう」というものだ。

アレクサンダーテクニークが中でも特に注目するのは、身体の支え方だ。「人間は何もしていないように見えても身体を支えることに筋肉を使っている。そこでも無駄をなくし、究極的にはただ置かれているような状態=プレイシングを目指すのが、アレクサンダーテクニークの重要なポイント」と青木さんは説明する。

間違った身体の支え方を続けていると、それに付随して呼吸の仕方も間違った、浅いものになっていってしまう。そして一度間違った呼吸法を脳が覚えてしまうと、身体の支え方だけを直しても呼吸は元に戻らないそうだ。そのため、心身の状態を改善するには、身体の支え方と呼吸の仕方の両方を並行して正す必要がある。

セッションではまず、身体の支え方の改善方法として、支持部位に体重を預ける支え方の指導がなされた。立っている場合であれば足の裏、座っているならお尻、背もたれを使っているのであれば背中にちゃんと体重を預けて支えることで、過剰共縮を避けるということだ。

一方、呼吸の改善については、息を吐いた時に腹部表面が動くかどうかを、観察したり手を当てたりして確認することを行った。呼吸に合わせてちゃんと動くようであれば、それは腹部に無駄な緊張がないということを意味する。青木さんは、「その際には身体そのものよりも、出入りする空気に意識を向けると良い」などいくつかの実践的なアドバイスを行っていた。

続きは後編で。

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参考サイト紹介

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