働き方改革の救世主?!駅ナカオフィスで生産性は高まるのか?
オフィスでも自宅でもない仕事場が急増中
平日休日問わず、カフェはパソコンやノートを広げる学生や社会人で満席、、、という光景が当たり前となっている日本。働き方改革の一環として、そしてオリンピック時の混雑緩和対策も見据えて、今企業のリモートワークへの取り組みが進んでいます。そんな時代の流れを受けて、みなさんも街でシェアオフィスやタイムシェアリングスペースを見かけることが増えているのではないでしょうか。
一方で、先日、カフェの大きなテーブルの隅でパソコンを広げていた男性は、両耳を手で塞ぎながら苦戦したもののあえなく退散していきました。働き方を柔軟にする場は増えているものの、果たしてみなさん仕事に適したスペースが選べているのでしょうか?職場でも自宅でもないこのような第3の仕事場は、果たして働く人たちの生産性を高めることにつながるのでしょうか?
そんな疑問を抱いた私たちWINフロンティアのスタッフは、2019年からJR東日本がはじめた新サービスである駅ナカオフィスのSTATION WORKSと、同じ駅近くにあるチェーン展開するカフェを使って、同一の作業をおこなって生産性を比較する実験をおこないました。
駅ナカオフィスとは下の写真のような電話ボックス型の作業スペースです。果たして、駅ナカの新スポットは働く人々の救世主となりえるでしょうか?!
「STATION WORK」 新宿甲州街道改札内
クレペリンテストを使って集中度と生産性を測ってみる!
とはいうものの、生産性って何をどうやって測ればいいのでしょう?
まず、本実験で用いた主な指標は、WINフロンティアの研究により導き出している、自律神経のバランスと心拍数の関係からみた集中度と、外部環境に対する心の開き具合を測る心の柔軟性です。
また、生産性に関しては、クレペリンテスト(正式名称:内田クレペリン検査)という、産業・教育現場等でも用いられる作業能率を測定する計算作業をPC上で行いました。
実験の概要は以下のとおりです。
【実験ついて】
●被験者:社員7名(男性5名、女性2名)
●日時:実験1:2020年1月14日(火)
実験2:2020年1月15日(水)
●場所: a. WORK STATION新宿(甲州街道改札内)
b.カフェチェーン(新宿駅近く)
●測定機器:
① 自律神経、心拍の測定:小型の生体センサmyBeat(WHS-1)
② 心の柔軟性の測定:Lifescore Quick
①
②
●実験方法と流れ
※① 生体センシングはmy beatをつけて実験中は継続計測
※② 15分のクレペリンの前後でLifescore Quickで心の柔軟性を測定
※チームをAとBに分けて、2日間にわたり実験。駅ナカとカフェはローテーションをかけた
結果をみてみると、、、駅ナカオフィスで作業に没頭!?
結果をみてみると、駅ナカオフィスは、生体反応からみた集中度は高く、心拍数が抑えられた状態で、しかも心の状態では自分の内側に向いて(気が散っていない)いました。まさに仕事に没頭するには理想的な状態で作業していた結果となりました。
また、作業効率に関しては、クレペリンにおける作業量(計算回答数)がアップ、しかも正答数も増加し正答率も高い水準を示しました。
※一人用の電話ボックス型の専用スペースで作業。15分の計算作業中はドアを閉めて実施
駅ナカオフィスでは、集中度High、心拍数Lowで理想的な集中状態!!
まず、クレペリン作業中の集中度の比較です(図1)。カフェと比べて駅ナカオフィスで集中度が高くなっています。わたしたちの研究※資料1では、自律神経の交感神経活動がある程度活発で、心拍数がある程度低い状態であるとき、集中度が高いことがわかっています。今回の結果からも、駅ナカオフィスでの作業中は、交感神経は高いものの落ち着いた状態での良い緊張状態で仕事や勉強時に理想的な状態であったと考えられます。心拍数の結果からは、カフェよりも駅ナカオフィスで心拍数が低いことがみてとれます(図2)。
図1
図2
駅ナカオフィス作業はハイパフォーマンスを示す結果に
次に、クレペリンテストによる計算作業ですが、それぞれの場所での回答数平均(cafe 655:駅ナカ724)、正答数平均(cafe 649:駅ナカ713)ともに駅ナカオフィスが多い結果となりました(図3)。今回は被験者が少なく統計的な優位差はみられないものの、平均数の差が表れました。
また、作業量は増えてもミスが多いと問題ですが、こちらは駅ナカもカフェもほぼ同等の高い水準で差はみられませんでした。つまり、駅ナカオフィスでは作業量が増え、かつミスも少ないという結果が得られました。
図3
以上より、駅ナカオフィスはカフェと比べて、作業に集中できて作業効率に寄与したと考えられます。
カフェでは人目が気になって…気が散った結果が作業に影響か?!
今回の実験での興味深い結果として、心の柔軟性から発見がありました。カフェでの集中度は駅ナカと比べて低かったことと合わせて、作業の前後で心の柔軟性が変わらず、作業中に心が内側に向いていなかったことがみてとれました。これは、作業に集中ができていなかったことと関係が深いと考えられます。
※クレペリン作業の前(before)と後(after)で心の柔軟性の変化をみるとカフェでは変わらず、駅ナカオフィスでは柔軟性が下がり心が内側に向いて集中につながった
【心の柔軟性とは】
わたしたちWINフロンティアの独自指標であるこころの柔軟性に関しては、様々なシーンでの測定や応用が可能ですが、代表的な活用法はメンタル疾患の予防です。心の柔軟性が低く、ストレスが高い状態(交感神経活動が優位)は心が閉じていることを示し、落ち込んでいたり、人と接するのも億劫であると考えられ、この状態が長く続くと精神疾患に陥りやすい、もしくは抑うつ状態である人はこのような状態になりがちであると考えられます。
(参考)Lifescore Quickの結果画面
日常生活においてストレス疾患を予防する視点では心の柔軟性が高いことが望まれますが、一方で、仕事の場面、特に隙間時間で効率よく短期集中で仕事をこなしたいシーンではどうでしょうか?心の柔軟性が高いと心が外に向いているため、他人の目を意識したり、気が散っている可能性が高く短時間で集中するには望ましくない状態であると考えられます。
カフェで仕事や勉強をされた方なら、少なからず同様の経験をされたことがあるのではないでしょうか。
人の会話、BGM、望まない空調の風、また今回実験をして感じたのは、意外と窓の外を通る方たちが気になったり…と様々な気が散る要素があると思います。
冒頭のカフェで耳を塞いだものの仕事ができなかった男性のケースがまさにあてはまるかもしれません。
一方、駅ナカオフィスは、カプセル状の扉で密閉できる完全個室状態。パソコンとノートが置ける程度のテーブルだけという限定空間(足元に温風暖房器具あり)は、思った以上に作業に没頭できた実感もありました。
今回の実験のまとめ
世界的に生産性が重視される中、実は海外では、集中、コミュニケーションといった目的に応じたオフィスゾーニングの設計や、オープンスペースの音のノイズの研究なども行われており、アンケート調査(主観ベース)では、パーテーションなどのないオープンスペースレイアウトでのビジュアルやサウンドのプライバシーが低いという結果がいくつかあります。ただし、実際に生体状態と生産性を合わせた実験はほとんどされていないのが現状です。
サンプル数は少ないものの、今回の実験では、駅ナカオフィスを使うことで、カフェよりも集中力を高めて生産性の高い作業を行うことができるという結果が得られました。
生産性を高める第一歩は目的に合わせて働く場所が主体的に選べるということかもしれません。駅ナカオフィスは順次拡大中のようですが、みなさんも通勤や打ち合わせへ行く途中などで短時間で集中して作業したいときなど、このような場所を選択肢に加えて利用してみてはいかがでしょうか。
資料1
当社の集中力の評価に関する研究では、交感神経がある程度高い場合でも、心拍数がある程度落ち着いている状態では、ポジティブなストレス状態で、「覚醒・集中」している状態であることを、複数の学術論文にて研究発表している[1],[2]。
1]駒澤真人,板生研一,菅谷みどり:心拍変動を活用した集中状態の評価検討, 電子情報通信学会MEとバイオサイバネティックス研究会,新潟,2019 年5月.
[2]駒澤真人,板生研一,畝田一司,羅志偉,板生研一:心拍変動と心拍数を組み合わせたストレス評価に関する検討,第28回人間情報学会,pp.3-4,東京,2017 年12月.
COCOLOLO ライフ magazine 編集部
執筆者プロフィール
殿村江美
有限会社E.flat代表マーケティングプランナー
産業カウンセラー、ハーバルセラピスト
「健康価値マーケティングでくらしをトーンアップ」をテーマとする+TONEで、商品開発、リサーチ、プロモーション開発等で企業のマーケティング活動をサポートする。
現代社会におけるストレスケアに向けて、メディカルハーブ、音楽療法、カウンセリングを活かしたコンテンツ制作や編集なども行う。
著書に「Me time こころをほぐす12ヶ月のメディカルハーブティ」
監修:WINフロンティア研究所