たった5分のマインドフルネスでクリエイティビティは高まるか?

大量の情報を浴びる現代

私たちの生活の中に、インターネットやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)がすっかり定着し、私たちは、知りたい情報をいつ何時でも瞬時に知ることができるようになりました。一方で、毎日大量に発信される様々な情報は、時に、私たちの生活のペースを狂わせ、ひとつの事に集中するのを難しくしている側面もあります。また、最新の情報に触れ続けていないと不安でたまらない、あるいは、成功を逃してしまうのではないかという恐怖を感じている人も少なくありません。このような状況では、じっくりと創造力を発揮して、新しいものを生み出すことは困難です。

 

マインドフルネスの効能

では、何か良い方法はないのでしょうか?その答えのひとつが「マインドフルネス(瞑想)」です。グーグルやゴールドマン・サックスといったアメリカの一流企業は、従業員にこのマインドフルネスを推奨し、大きな成果を挙げています。マインドフルネスはストレスを低減する手法として実践されることが多いのですが、実は創造力(クリエイティビティ)を高めるのにも有効であると言われています。

* Danny Penman「Mindfulness for Creativity」参照

具体的には、まず第1に、マインドフルネスは、発想力のスイッチを入れると言われています。つまり、マインドフルネスによって、意識を「今ここ」に集中する時間を持つことで、新しい発想を行うための心の準備ができるということです。また、第2に、マインドフルネスによって、注意力が高まるため、アイデアの斬新さや有用性に気づきやすくなると言われています。

では、このマインドフルネスをどのぐらいの時間実施すれば、創造力(クリエイティビティ)が高まり、斬新な発想を生み出せるようになるのでしょうか?先行研究では、数週間、継続的にマインドフルネスを実施することで、様々な効果が得られたという報告が多数ありますが、今回、私たちWINフロンティア研究所では、たった5分間のマインドフルネスで、どの程度、クリエイティビティを高められるのかを簡易的に実験しました。

 

「マインドフルネス×ブレスト」で実験!

まずは簡単に、今回の実験方法をご紹介します。今回の実験参加者は6人(男性4人、女性2人)です。この6人をランダムに2グループに分け(以下、Aグループ、Bグループと呼びます。)、比較実験を行いました。創造力(クリエイティビティ)を測定する方法としては、様々なものが考えられますが、今回、使用したのは、様々なWebコンテンツや企画を手がける面白法人カヤックの『ブレストカード』です。「ブレスト」とは、ブレインストーミングの略称で、数名のチームで1つのテーマに対し、お互いに意見を出し合う事でたくさんのアイデアを生み出す技法のことを指します。また、この『ブレストカード』は、一枚一枚のカードにイラストが描かれており、カードを引いた人は、そのカードに描かれているイラストから連想できるアイデアをお題に沿って考え、発言するというものです。

面白法人カヤックの『ブレストカード』

 

また、私たちWINフロンティア研究所は、心拍の変動(ゆらぎ)から、自律神経の活動を定量的に把握することを専門としていますので、『ブレストカード』でブレストを行なっている参加者の自律神経活動を常時、測定し、創造力(クリエイティビティ)が高まる時の自律神経のバランスがどうなるか、つまり、緊張気味にブレストを行うのと、リラックス気味にブレストを行うのとでは、どちらがより良く創造力(クリエイティビティ)を発揮できるのかを検証してみました。この自律神経の測定には、小型の生体センサmyBeat(WHS-1)を使用しました。

専用の生体センサでブレスト中の自律神経活動を常時測定

 

最初にAグループは、ブレストの実施前に、5分間のマインドフルネスを実施しました。

マインドフルネスの実施にあたっては、WINフロンティア㈱にて独自に制作している、マインドフルネス動画コンテンツの中から、以下の2本を活用しました。

マインドフルネス動画その1「知床の景色」

マインドフルネス動画その2「金沢の景色」

 

このマインドフルネス動画では、日本の美しい名所の画像を見ながら、ガイダンスに従って呼吸をすることで、意識を「今ここ」に自然に集中できるようになっています。

5分間のマインドフルネス実施後、いよいよ『ブレストカード』を使ってのブレスト開始です(制限時間15分)。今回のお題は以下です。(なるべく同じような難易度のお題にしました。)

 

実験1回目:「朝、早起きするために有効なこと」

実験2回目:「夜、早く寝るために有効なこと」

 

お題は、ブレストの開始直前に、参加者に知らされます。各グループは、制限時間15分の中で、グループ全体で、できるだけ多くのアイデアを出すことを目指します。

『ブレストカード』を使ったブレストの様子(Aグループ)

 

1人ずつ、順番にカードをめくって、出てきたカードに描かれているイラストを見ながら、お題に沿って、各人がアイデアを出していきます。もし、アイデアが思いつかない場合は、早めに「パス」をして、グループ全体でのアイデア数が最大化するように心がけます。

一方、比較群のBグループは、マインドフルネスを実施せずに、いきなり『ブレストカード』でのブレストを行います。

後日、2回目の実験を行いました。今度は、AグループとBグループ逆にして、つまり、Bグループは、ブレスト前に5分間のマインドフルネスを実施、Aグループはマインドフルネス無しで、いきなりブレストを実施しました。

今回の実験フロー

 

気になる結果は?

まずは、ブレストにおいて出たアイデア数とパス数(瞬時にアイデアが出ないためスキップした回数)を比較すると、下図のように、マインドフルネスを実施たほうが、わずかではありますが、アイデア数が増加し、パス数が減少する傾向が見られました。

* 標本数が少ないこともあり、統計的な有意差(有意水準α=0.05)はみられなかった。

 

次に、ブレスト中の自律神経の状態についてです。果たして、緊張気味にブレストを行うのと、リラックス気味にブレストを行うのとでは、どちらがより良く創造力(クリエイティビティ)を発揮できたのでしょうか?

下図のように、全体的に、マインドフルネスを実施したほうが、ブレスト中の心拍数が低くなり、自律神経のバランス(LF/HF)は、リラックス傾向(副交感神経の活動が増加)になりました。 

* LF/HFの値が低いほうが、リラックス傾向を示す。

** 標本数が少ないこともあり、いずれも統計的な有意差(有意水準α=0.05)はみられなかった。

 

ブレスト中の平均心拍数の比較

 

ブレスト中の自律神経バランスの比較

 

今回の実験のまとめ

6人という少ない参加者での簡易な実験ではありますが、ブレスト前にたった5分のマインドフルネス(瞑想)を行うだけでも、創造力(クリエイティビティ)がわずかではありますが、高まる傾向がみられました。たった5分のマインドフルネスを実施したことで、参加者は少しリラックスした状態でブレストに取り組むことができ、それが創造力(クリエイティビティ)を高めることにつながった可能性があります。

たった5分のマインドフルネス(瞑想)で、創造力(クリエイティビティ)を少し向上させることができれば、とてもお得だと思いませんか?ぜひ、みなさんも試してみてください。

 

 

【執筆者プロフィール】

WINフロンティア研究所 研究員

医学博士 & MBA、産業カウンセラー

板生 研一